Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

大阪中学校体育連盟準硬式野球部長 藤田 幸克さん

2018年9月6日

「芯」のある人間育成 準硬式の中学野球を次世代に

第69回大阪中学校優勝野球大会開会式に臨む選手たち

 大阪で毎年夏に開かれる「大阪中学校優勝野球大会」の使用球は、トップボールと呼ばれる準硬式だ。外観は軟式でありながら硬式のような打撃感があり、その後の高校野球に順応しやすい。一方で、安全性の課題を抱え、準硬式から軟式の野球に移行する中学校は少なくない。プロ野球選手を数多く輩出した伝統の準硬式大会を、いかにして次世代につなげるか。第70回記念大会を来年に控える大阪中学校体育連盟の藤田幸克・準硬式野球部長(58)に聞いた。

■参加数3分の1

 1947(昭和22)年に大阪中学校体育連盟は立ち上がった。終戦直後の焼け野原な状況であり、スポーツの道具はろくに無かったと思う。戦禍から癒えない中で、生徒たちにスポーツをさせたい気持ちを抱いた当時の教員たちの熱意はすごかったはずだ。その3年後の50年8月1日、大阪中学校優勝野球大会は日本生命野球場で始まった。

 今年の第69回大会は63校が参加した。現在の参加校のエリアは豊中地区の豊中市、池田市、能勢町と守口地区の守口市、交野市、四條畷市、山本地区の東大阪市、八尾市、柏原市で、このほかに私立6校が参加している。

 第1回大会の参加は209校を数え、大阪市と堺市の学校も参加していたが、50年余り前に軟式野球へ移行した。学校のグラウンドをサッカー部、陸上部、ラグビー部などと共有する中、準硬式野球のボールがほかの運動部の生徒たちに当たると危ないと捉えられてしまい、その後も高槻市や枚方市の学校が軟式へ移った。ボールが硬いことと「危険」を結びつけるのは短絡的だと感じている。

■運命共同体

 現在の参加63校はいわば運命共同体だ。中体連の準硬式野球部として、顧問教員の不在時は打撃練習を禁止しているほか、グラウンドにほかの運動部が活動している時は、ノックの練習をしないようにしている。万一、けが人が生じた場合は保護者に説明し、お見舞いする。とにかく、けがの防止に神経を使っている。

 昔は公園で野球ができたが、今は野球禁止の公園ばかりのように感じる。サッカー人気もあり、野球人口そのものが減っている。少子化によって学校の統廃合が進めば、大阪中学校優勝野球大会の参加校は減っていく。来年は70回の記念大会だ。参加数が60校を割らないようにしたいのが本音。大会が一度断ち切れると、復活は難しい。準硬式野球の灯を消さないようにしたい。

■往年の名選手

 準硬式のボールは、表面がゴムだが、中身は「有芯」だ。硬式の中身も有芯であり、違いは硬式の表面が皮というだけ。一方、軟式は表面がゴムであり、中身は空洞だ。準硬式の場合、打撃の感触が硬球に近い。打球音や打球の伸びは硬式と同じだ。このため、準硬式野球をしている中学生は、甲子園を目指す高校野球への順応が早い。

 大阪中学校優勝野球大会は、プロ野球に進んだ近藤和彦(高槻一中)、高田繁(加賀屋中)、岡田彰布(明星中)、土井正博(柏原中)、牛島和彦(四条中)、香川伸行(大体大付中)、南渕時高(縄手北中)、桑田真澄(大正中)、古久保健二(豊中七中)、石田隆司(枚方四中)など往年の名選手を輩出した歴史がある。プロであれほどの活躍をした人たちが準硬式の先輩であることを、現役の選手たちは誇りにしてほしい。

■休養日

 運動部の活動について、スポーツ庁が週2日以上の休養を設ける指針を今年3月にまとめた。私たちは既に週1日の休みを取っている。昔は野球漬けの毎日が当たり前だったが、今の子どもたちは勉強やプライベートな活動に忙しいようだ。無理に「引っ張り」続けると、切れてしまうので、緩めることも必要だろう。

 休養日があれば、部活動に集中し、けがを防ぐこともできる。顧問教員にとっても休養日はありがたいはずだ。私の場合、顧問として野球漬けだったので、妻子に迷惑をかけた思い出がある。家庭があってこその部活動であり、若い顧問には家庭を大切にしてほしい。

 現在は野球選手が肩や肘を冷やす「アイシング」が当たり前だ。昔は体を冷やすことは悪だと言われたが、スポーツ医・科学に基づいて環境は変化している。昔と違って、水分も補給するようになった。今夏の大会は、甲子園の全国高校野球選手権大会を手本に給水タイムも設けた。

■不易流行

 休養を適切に取ることは必要だが、練習する時はしっかり練習する姿勢は大切だ。元気に声を出して、グラウンドでは歩かない。この点の指導を徹底したい。「不易流行」という言葉がある。時代に即して変えなければいけないものはあるが、変わらないものもある。

 先ほども話したが、準硬式のボールの中には芯があり、芯のある人間を育てていく、と私たちの大先輩は話していた。マナーや礼儀、忍耐力など社会人になるための基礎を野球を通してつくりたい。

 ふじた・ゆきかつ 1960(昭和35)年生まれ。85年4月に枚方市立中宮中の新任教諭として着任。現在は守口市立第一中首席。大阪中学校体育連盟準硬式野球部の北河内地区審判委員長や府審判委員長などを歴任して2014年度から準硬式野球部長。交野市在住。

 〈大阪中学校優勝野球大会〉
 全国で唯一、中学生が準硬式(トップボール)を使用して繰り広げる大会。第1回は1950年に209校が参加し、日本生命野球場で開催。プロ野球の大洋ホエールズ(当時)などで活躍した近藤和彦(高槻一中出身)は第1回出場選手。その後も、桑田真澄(大正中出身)などのプロ野球選手を輩出した。今年8月の第69回大会は63校が参加し、花園中央公園野球場で中央大会を開催した。大阪府教委・大阪中体連主催、大阪日日新聞など後援。


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