Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

追手門学院理事長 川原 俊明さん

2018年10月4日

志願者数6年連続増加 教学改革で環境整備

新キャンパスのイメージ図

 18歳人口は2030年代に100万人を下回る見通しだ。文部科学省統計によると、ピークだった1992年度の205万人の半数にも満たなくなる。このため、大学の運営は一層厳しさを増すが、少子化時代にあって入学試験の志願者数を6年連続で増やした大学がある。追手門学院大(茨木市)だ。来年春に新キャンパスを開設する計画もあり、攻めの大学運営を続けている。創立130周年の節目を今年迎えた学校法人・追手門学院の川原俊明理事長(70)に、これからの大学のありようを聞いた。

■笑学コース開設

 20〜30年前まで200万人だった18歳人口は今や、110万人台だ。少子化が進み、大学間競争は厳しい状況だが、追手門学院大は2018年度入試の志願者が1万9118人を数え、7855人だった13年度から6年連続で増えている。なぜか。追手門学院大が新しい教育、つまり、学び合うための「教学改革」を実践しているからだと思う。

 その一例が、15年度に新設した地域創造学部だ。学生たちは東日本大震災で被災した岩手県の町おこしを実践しているほか、地元の茨木市や岡山県、長野県の自治体で課題の解決に臨むなど、座学では得られないフィールドワークに取り組んでいる。

 今年4月には国際教養学部国際日本学科で「笑学コース」をスタートした。笑いに関する文化、芸能に触れ、笑いの仕組みを学術的に分析するコースだ。狙いは、コミュニケーション力を育成することにある。ゲスト講師は放送作家や落語家など多彩だ。笑いを交えたスピーチコンテスト、思わず笑顔になる文章コンテストも行っている。笑いといえば、大阪だ。東京では決してまねができないはずだ。将来的には「笑学部」を新設したいと考えている。

■学則を改正

 私は、追手門学院の小中高校の卒業生で、同窓会の会長を務めていた。私が理事長に就任した7年前、当時の追手門学院大は理事会と教授会が対立していた。教授会の影響力が強く、理事会の経営方針が通りにくかった。教授たちは専門分野を研究していることもあり、新しい学部の設置も困難な面があった。しかし、私はもともと弁護士であり、法律家として大学のガバナンス(統治)改革に取り組み、13年度に学則や内部規定を改正した。最高意思決定権は理事会にあり、教授会は学長の諮問機関とすることと明確に位置づけた。つまり、教授会の権限を縮小した。

 この結果、理事会と大学が一体となって改革を進めることができた。地域創造学部の新設をはじめ、国際教養学部と経済学部の学科改組など、社会の動きに対応できるようになった。追手門学院大の試みは文科省の目にとまり、大学改革として学長のリーダーシップを強化する14年の学校教育法改正につながったと考えている。

■2キャンパス

 追手門学院は幼小中高大の総合学園だ。来年4月には大学の一部機能と、同敷地内の中学、高校の全機能を移転する。移転先は同じ茨木市内だが、JR総持寺駅徒歩約10分と近く、アクセス面を改善できる。

 新キャンパスは、大学の建物が巨大な三角錐(すい)だ。一辺の長さは130周年にちなんで130メートル。1階は千人規模のホールになっており、教育・研究成果の発表の場としても活用できる。学生と教職員の距離が近くなるだけでなく、地域に開かれた学びの場にもしたい。3、4階には図書館を整備する。下層階をアクティブラーニングのスペースに充て、上層階を研究の場にする。10万冊の蔵書を備える予定だ。中学、高校は、学びのスタイルに応じて教室の間取りを自在に変更できる。

 大阪市中央区にある追手門学院小学校も英語、ICT(情報通信技術)教育の拠点となる新東館のメディアラボを来年春に開設する。同じ敷地内の追手門学院大手前中学、高校はプログラミング教育に力を入れ、同校のロボットサイエンス部は今年のロボットコンテスト世界大会で優勝した。小学校、中学校、高校、大学で学び合いの環境を整え、児童、生徒、学生の主体性を向上させたい。

■心の偏差値

 追手門学院の創設者は大阪鎮台司令官を務めた高島鞆之助(とものすけ)。薩摩藩(鹿児島県)の出身だ。薩摩には「郷中(ごじゅう)教育」と呼ばれた独特の教育制度があった。地域の先輩が後輩を教える「学び合い」だ。追手門学院の教育はまさに現代版の郷中教育だと思う。

 就職活動で大手銀行の内定を得た追手門学院大の学生がこんなことを言っていた。「私は大学のゼミで鍛えられ、大手銀行に就職できた。『心の偏差値』を高めることができた追手門学院大に感謝します」と。大学の物差しは偏差値と言われるが、入学時と卒業時の偏差値は違うと思う。勝負は大学に入ってからだ。追手門学院大は本物の人材を輩出していく。

 かわはら・としあき 1948(昭和23)年生まれ。寝屋川市出身。早稲田大卒。弁護士。追手門学院小中高の卒業生で、同窓会長を歴任。2011年に追手門学院の理事長に就任。17年から追手門学院大の学長を兼任。

〈追手門学院の新キャンパス〉
 追手門学院は、茨木市に新キャンパスを建設し、来年4月の開設を目指している。追手門学院大と追手門学院中・高校の校舎を整備し、大学生約3600人、中・高校生約1200人が新たな環境で学びを深める。
 新キャンパスは現在の追手門学院大から南東約2キロに建設する。敷地面積は約6万4400平方メートル。大学校舎は5階建てで、2018年の追手門学院創立130周年にちなみ、建物を真上から見ると1辺の長さが130メートルの正三角形となり、横から見ると逆三角錐のデザインとなっている。
 地域創造学部と国際教養学部を移転し、全学部の1年生の初年次教育の拠点にする。中・高校の校舎は4階建てで、「脱教室」「脱図書館」をテーマに各階に図書スペースを設ける。
 新キャンパス建設の総事業費は約220億円。