亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

東大阪市岩田町「岩田墓地」お初狐

2016年5月7日

花で着飾る妖艶な化け狐

「お初狐」イラスト((C)合間太郎)

 さてさて新連載「妖怪不思議千一夜」の始まりである。大阪の妖怪を中心にしながらも、全国の妖怪話をお届けしたいと思う。というのは、大阪には妖怪や怪談話が極めて少ないということである。落語や講談も、近年の創作、あるいは他地域の地名を大阪に置き換えて語る場合が多い。その少ない中でも大阪でよく聞く妖怪話といえば、狐(キツネ)にまつわる話だろう。団塊の世代、その上の祖父祖母の世代は狐に化かされることは日常的にあったようだ。特に竹やぶなんかがうっそうとしげる場所は、妖怪出現の格好の舞台となった。その中の一つ、東大阪市岩田に伝わる「お初狐(はつきつね)」の話をしよう。

 朝もやの中、花売りを生業(なりわい)としている留吉という男が歩いていると、竹やぶの中にきれいな花が咲いている場所があった。こんなところに不思議なことだと見とれていると、一匹の狐が花びらをなめては体につけ、きれいに花で着飾っている。すると、ひょっとした拍子に狐はくるりと妖艶な美女に化けた。「ははあ、これが人の物を盗んだり、野つぼに落としたりするお初狐やな」と思い、大きな商売用の花かごを置いて後をつけることにした。

 ほどなく狐は大きなお屋敷に入っていく。留吉は家人に知らせようと門をたたくが、返事がない。中で狐が悪さをしているにちがいないと、あせってドンドンたたくと、後ろから「何しとるんや」という声がする。振り向くと知りあいの直吉だ。化け狐が入ったことを言うと「よう見てみい」と言われ、よく見たら岩田墓地の火そう場の入り口であった。おそらく留吉の花かごの花もすっかりなくなったことであろう。

 とまあ、こんな調子で千一夜、シェエラザードになったつもりで妖怪話を語っていきます。面白くなかったら殺されるというアラビアンナイトの日本版。命がございましたらまた次回、ごきげんよろしゅうお頼みします。

 (日本妖怪研究所所長)

【プロフィル】亀井澄夫(かめい・すみお) 日本妖怪研究所所長。有限会社レベル代表取締役。書籍雑誌の編集、音楽家、映画監督など多岐にわたる活動を展開。妖怪講座やゴブリンマーケットなどイベントも好評。今秋、妖精妖怪をテーマに雑誌「イルミタイ」を創刊予定。

最新記事