亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

北区菅原町

2016年7月2日

まるで娘のように振る舞う猫

「私、きれいかニャン。ニーッ」イラスト((C)合間太郎)

 天神橋の菅原町に猫好きの老夫婦がいた。子どもはすでに遠くで暮らし、家には夫婦と1匹の猫だけ。夫婦は猫をこの上もなくかわいがり、いっしょに布団で寝る、風呂に入る、食事をする、それも魚の身をほぐしてアーンとか言いながら食べさせ、みそ汁もかわりばんこに同じわんに口をつけて飲む。便所も人間のように連れて行って用を足させ、外出は乳母車に乗せて出歩くという、それこそ「猫かわいがり」で、そんな生活を10年以上も続けていた。おかげで猫はメタボになったのか、まるまる太って大猫になった。

 さて、そんなある夜、おじいさんが寝ようとすると、おばあさんがあわてて呼びに来た。言われるままにふすまの陰からのぞくと、飼い猫が鏡の前で化粧をしている。まるで人間の娘のように、白粉(おしろい)を塗っては、いろいろな表情をつくって、ニーッと笑う。

 あまりの不気味さに声も出ないでいると、猫はスックと立ち上がり、そばにあった手ぬぐいを頭に乗せ、上手にクネクネと踊りだしたから、老夫婦はまっ青になって腰をぬかしたという。

 手ぬぐいを頭に乗せて踊るのは江戸の化け猫の定番。この話も江戸から伝わって、大阪の地名に置きかえたのかもしれない。また、菅原町には江戸時代、蔵屋敷が多く、この老夫婦もきっとお金持ちで楽隠居状態だったのだろう。金持ちでないと、こんな生活は無理だ。豆知識として、猫が化けるのを防ぐには、最初に「3年飼ってやる」とか「2年飼ってやる」とか言っておくと、その期限が来たらどこかに行ってしまう。期限を決めずに飼うと、いつしか化けるので要注意である(ほんまかいな)。

 猫も人と同じに育てたら人の暮らしを学習して、まるで人のように振る舞うのかもしれない。大阪には珍しい化け猫の話である。

 (日本妖怪研究所所長)


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