亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

人を馬に変える魔法使いの男

2016年8月13日

大阪でも知られた伊勢の名物「赤福もち」

見る見るうちに人が馬に イラスト((C)合間太郎)
大阪の男たち3人が伊勢参りに行ったときのこと。途中で日が暮れたので宿をとった。宿の主人は愛想よく迎えてくれて、「これは名物の草もちです。どうぞ召し上がってください」と言うので3人は喜んで草もちをほおばった。すると、3人とも全身に毛が生えて、手も足も顔も伸び、馬の姿になってしまった。

 宿の主人は3頭(3人)の馬をひったてて、外で待っている博労(ばくろう)に引き渡し、金を受け取った。なんと宿の主人は泉鏡花の『高野聖(こうやひじり)』に出てくる、人を馬に変える魔性の女のような魔法使いだったのだ。

 その後、馬たちはこき使われ、毎日くたくたになるまで働かされた。馬になった男がふと、昔の浄瑠璃にある「馬にススキを食わせるな。人に化けるぞ」という一節を思い出し、ススキの穂を集めて3頭で食べた。すると本当に人間の姿に戻ってしまった。

 3人は宿の主人のところに行って「伊勢参りの帰りじゃ、泊めてくれ」と言う。主人はあのときの3人と気づかず歓迎し、またも例の草もちを勧める。「こりゃうまい」と三人は食べるふりをして、こっそり持ってきたあんこで丸め「これが伊勢みやげの赤福もちです。どうぞ召し上がってくだされ」と渡したところ、主人は「これが有名な赤福か」と言いながら、うまいうまいとパクパク食べた。するととたんに手足が伸び、顔が伸びて馬になってしまった、というお話。

 この話がいつ頃のことか分からないが、伊勢の赤福もちは300年以上の歴史を誇る。今とちがって伊勢に行かねば手に入らなかったと思うが、その名はすでに大阪でも知られていたのだろう。これは赤福の人気があればこそできたお話。300年のうち、人気がなくなれば他のものに変わっていたかも。昔も今も「伊勢のみやげは赤福」なのである。

 (日本妖怪研究所所長)


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