亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

狐を売って千両にした男

2016年9月10日

和泉市室堂町女鹿坂の「オモシロ狐」

「私、油あげが大好きよ」イラスト((C)合間太郎)

 紀州の木綿を大阪の問屋に運ぶ商人で門垣惣兵衛(もんがきそうべえ)という男がいた。惣兵衛は毎日、弁当持参で荷物を運び、決まって女鹿坂(めまざか)(現在の和泉市室堂(むろどう)町)でお昼にする。惣兵衛の弁当は、いつもいなり寿司(ずし)で油あげが大好物だった。

 ある日弁当を食べていると、松の木の下にきれいな娘が立っている。聞くと「あまりにおいしそうないなり寿司に、つい見とれて」と言う。それなら明日からお前の分も作ってやろうと言って、弁当を二つ持ってくるようになり、それが何カ月も続いた。

 ご恩返しに娘が「好きなものは何か」と聞くと、惣兵衛は「お金」と答える。「では、私を新町の吉田屋に千両で売ってください」と言う。なるほど、この器量なら千両になるだろうと吉田屋で交渉の結果、千両で女を売った。帰りぎわに娘が「帰ったらすぐに病気だと言って医者を呼んで、10日ほど寝てください」と言う。惣兵衛は帰ると、知り合いのやぶ医者に来てもらい、10日ほど寝込んだ。一方、娘は吉田屋で、花魁(おいらん)として礼儀作法などを教えてもらい、店に出る準備をすることになった。

 ところがそうした矢先、娘がこつぜんといなくなってしまった。吉田屋は惣兵衛の所にたずねてきたが、どこの娘かも知らぬ、自分は家でずっと病気で寝ていたと言って、やぶ医者も同意した。惣兵衛のアリバイは成立したのだ。それから千両を元手に料理屋をはじめ、それが大当たりして自分の名前から「門惣(もんそう)」と店に名をつけた。

 ある日庄屋が芝居の慰労の宴(うたげ)を催すというので、100人ほどの仕出しを頼んできた。酒や料理を運んだ屋敷には有名な役者がずらりとそろい、その豪華なこと。気を良くした惣兵衛だが、次の日集金に行って驚いた。そこには屋敷などなく、原っぱに皿や酒だるが転がっているだけ。ふと見ると白い紙に「惣兵衛様、ごちそうさま。今度は油あげのお料理お頼みします。オモシロ」と書いてあったという。娘は尾だけが白い「オモシロ狐(キツネ)」だったのだ。

(日本妖怪研究所所長)

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