亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

和泉市「炭焼き小五郎と玉津姫」

2016年10月22日

金に目もくれず夫婦円満に

「砂金なんて、ポイッじゃ!」イラスト((C)合間太郎)

 昔話は本来、家族や地域で楽しむ、ごく狭い範囲の娯楽であった。その話の元がどの地方の話であるかは問題ではない。おばあさんは、住んでいる場所の地名を置き換えたりして子どもに語ったのである。だから全国に、桃太郎や浦島太郎がいて、かちかち山もある。

 そんな話の一つに「炭焼き小五郎」がある。有名なのは大分県の昔話だが、全国に類話が存在する。大阪の和泉市に伝わる話は、昔話らしい小話で、心あたたまる内容である。

 その昔、長者の家に玉津姫という年頃の一人娘がいた。きれいな顔立ちをしているが、全身に黒いアザがいつの間にか無数にできてしまい、医者も手のほどこしようがなかった。そこで三輪明神に願掛けをしたところ「葛城山に住む小五郎という炭焼きと夫婦になれば快復する」というお告げが出た。長者は神託であれば仕方がないと、侍女をつけて葛城山へと行かせた。しかし一行は山の中でオオカミに襲われ侍女たちは死に、姫は谷底に転落した。

 姫が気づくと、そこは炭焼き小屋の中。獣の皮を着たひげもじゃの小男がいて、自分は小五郎という名だと言った。姫は今までのいきさつを話したが「そんな馬鹿な。それにここには着るものも何もない」と言うと、姫は長者が体に巻いてくれた砂金を差し出した。「これがあれば、なんでも好きな物が買えます」と言うと、小五郎はポイッと窓の外に砂金を放り投げてしまった。うろたえる姫に向かって「そんなもの窓の外にいくらでもある」と言う。たしかに川には砂金がいっぱい、山のようにあったのだ。

 次の日、姫がその川で体を洗うと黒いアザが見事になくなって、美しい肌のきれいな娘になった。そうこうするうちに姫も炭焼きの仕事に興味を持ち、いっしょに毎日、真っ黒になるまで働き、夫婦となって末永く暮らしたということである。他県に伝わる「炭焼き小五郎」と似て非なる大阪の昔話である。

 (日本妖怪研究所所長)


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