亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

中央区伏見町

2016年11月5日

前妻の魂、蝶となる

「ギロリ!」イラスト(C)合間太郎

 日本には、人が亡くなるとその霊魂が蝶(チョウ)の姿となって、生前親しかった人の所へ現れるという信仰がある。魂が体から抜け出たことを知らせるために蝶の姿になるのだ。だから、蝶が家の中に舞い込んできた場合は、ねんごろに扱ってやらねばならない、と小泉八雲の『虫の研究』などに記されている。

 また、殺された妻のかんざしが蝶へと変わり、仇敵の隠れ家の上を飛んで場所を知らせた、という話もある。

 さて、これは1885(明治18)年の伏見町でおこった実話である。

 大阪は昔から薬の町としても知られ、大阪から各地へ行商に行く者も多かった。特に伏見町は薬の町として、今も知られている。

 そんな薬種(やくしゅ)商のある主人が女中と親しくなってしまった。妻はどうにも我慢がならず、2人のあからさまな様子を見て、悔しさのあまり、ついに自害して果てた。そうなると喜んだのは主人で、人目もはばからず、さっさと女中を後妻にした。

 日中は何事もないが、夜、2人が寝床に入るとどこからやってくるのか大きな蝶がひらひらと現れ、2人の顔のまわりを飛びまわる。手で払いのけてもすぐに戻ってきて、まとわりつくのだ。

 それが幾晩か続いた後、夏のうちわで後妻が蝶を打ちつけたとたん、彼女は大きくのけぞった。

 見ると蝶の羽根の文様が前妻の顔そっくりで、恐ろしい形相で後妻をにらみつけていた。気になるその先は伝わっていないが、この手の恨みは女同士の場合が多く、男(主人)は恨みの対象にならないところがおもしろい。

 (日本妖怪研究所所長)