亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

八尾市黒谷

2016年12月17日

夫婦和合の秘法を伝授

「ええ所を言わせるのがコツ」イラスト(C)合間太郎

 かつて八尾の高安山の西にある黒谷は、行者たちの修行の場であった。

 滝に打たれたり、山にこもって修行する者の中に、ちょっと変わった行者がいた。その行者にかかると、離婚寸前の夫婦でも仲直りできるのだ。別れさせたくない夫婦を行者の所へ連れて行く親族や友人などが多く、行者の秘法にかかると、たちどころに直って仲良く山を下りてくるのだから摩訶不思議。

 行者の風体は髪もヒゲも伸び放題。アカまみれの衣を着て、金が入ると山を下りて酒をあびるほど飲む。ただの酔っぱらいにしか見えない男だが、夫婦仲をとりもつ術にだけはたけていて、ある日、一人の男が酒をすすめ、その秘法を聞きだそうとした。

 最初は口を割らなかった行者だが、小判を3枚渡すと、ちゃっかり「あと2枚よこせ」と言う。男が渡すと行者はようやく話しだした。

 「夫婦を別々の穴の中に入れるんや。それで相手のええ所を22カ所、思い出させて何回も言わすんや。だんだん、すらすら言えるようになってきたら、今度は2人を同じ穴に入れる。それで、かけ合いで順番に22カ所、相手のええ所を言わせる。それだけのことや」

 そうすると、たいてい照れて途中で言わなくなるそうだが、そのときは「もっと修行せえ、そうせんと出さへんで」と言って、まっ暗の穴の中に閉じ込めて放っておくらしい。

 「それで、また、ええとこを言い合ううちに、なんと言っても夫婦や、まっ暗でせまい穴の中、どうなっていくかわかるやろ。終わったときは照れくさそうに出てきよる。わしはただ、それだけのことでお金もろて、仲悪なったらまたおいで、と言うだけや」

 ということで、男はしきりに感心したという。苦行することなく人を助ける「人智の術」にたけた行者であった。

 (日本妖怪研究所所長)