亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

八尾市弓削町大和川周辺

2017年2月25日

水神に魂を抜かれて亡者となる

「妖しの馬が対岸へと運ぶ」イラスト(C)合間太郎

 伝説の多い人物と言えば、弘法大師、役小角(えんのおづぬ)、そして聖徳太子あたりかと思う。その中でも聖徳太子の、ちょっと変わったお話を紹介しよう。

 友勝という鍛冶屋が大和郡山まで出かけた帰り、橋がないので大和川の下流をぐるりと回り、対岸の自分の家まで帰らねばならないが、どうにもこうにも疲れて、大和川を見ながらひと休みしていると、馬が2頭走ってきた。

 1頭には黒い頭巾を被った男が乗り、もう1頭は空の馬だ。友勝は家族へのおみやげなど荷物もあったので「馬を貸してください、お駄賃はおいくらでしょうか」と頼んだ。頭巾の男は友勝を見て「駄賃はいらん、乗りたければ乗っていけ」と無愛想に言う。でもありがたいと、馬を借りて川に入ると、馬は慣れているのかスイスイと対岸まで渡っていく。友勝が降りると、馬はまた川を戻って行く。

 喜んで友勝が家に帰ると、女房子どもと叔父夫婦が食卓を囲んで楽しそうに笑っている。友勝が「帰ったぞ、ほら、おみやげ」と言ったが、「お父さん遅いねー」と言いながら無視され、誰も聞いていない様子。腹がたって女房の頭をポカリとやってもまったく気づかない。

 なんだか悲しくなった友勝は、大和川までとぼとぼ戻ってくると、そこに紫の着物を着た人が大勢お供を連れて通りかかった。供の者が友勝を見て「亡者がこんなところにおりまする」と、おかしなことを言う。友勝は「私は亡者ではありません」と言うと、紫の着物の人が「また水神め、悪さをしたな」と言い、経を唱えて手に持ったつえで友勝の背中をトンと突く。すると、友勝は夢からさめたような気分になった。

 供の者が「聖徳太子さまが魂をお戻しになった。もう帰ってよいぞ」と言うので家に帰ると、「お父ちゃんお帰りー」と家族の歓迎を受け、楽しいだんらんになった。

 八尾市弓削町大和川周辺に伝わる、水神が魂を抜くお話。

 (日本妖怪研究所所長)