亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

八尾市

2017年5月22日

地獄へ直行、火車を引く狐

「和尚、わしがもらうぞ」イラスト(C)合間太郎

 この頃は妖怪が好きな人が増えたせいか、昔とちがって「火車(かしゃ)」などはポピュラーな部類に入る気がする。火車とは罪人を地獄に送る車のことで、火をボーボー燃やしながら走って行く。また、葬式の最中に棺のフタをはね上げて、死者を奪うこともする。江戸時代の絵師や水木しげるも絵にしているので、知っている人も多いことだろう。

 それで今回は八尾に火車が出た話。両親がとうふ屋を営んでいて、そこの娘は評判の看板娘。親の手伝いはよくするし、店先でも愛想よく客の相手をする。とうふのおいしさより「娘と話がしたい」「笑顔が見たい」という客が後を絶たず、店は大いに繁盛した。

 ところが、いつの頃からかぷっつりと娘の元気がなくなった。原因がまったくわからず、日に日に娘はやつれていく。愛想のよかった性格もトゲトゲしくなって、人につんつん当たってくる。前は朝早くから、親といっしょにとうふを仕込んでいたのに、今では仮病でふて寝までするというありさま。周りの人も心配して医者を呼んでくるが、「体をさわられたくない」と言うので近寄れない。薬も「毒を盛るのか」とにらまれる始末。

 ひょっとしてこれは、何かが取りついたのではないかと寺の和尚に相談すると、さっそくその夜、和尚は店を訪ねてきた。和尚が玄関で声をかけようとすると、突然、入り口が大きな音をたてて開き、ものすごい勢いで真っ赤に燃えた火の車が飛び出してきた。

 見ると大きな狐(キツネ)が鬼のような形相で目をむき出し、牙をかみながら車を引いて、怒濤(どとう)の勢いで和尚の前を過ぎていく。狐が和尚をギロリとにらみ「わしがもらうぞ」と言うやいなや、つむじ風を巻き上げて空へと消えた。

 あわてて和尚が家に入ると、娘はもう息をひきとった後だった。

 全国でも珍しい「火車狐」の話。八尾には狐の話が多い。また機会をみてご紹介しよう。

 (日本妖怪研究所所長)