亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

柏原市

2017年7月17日

少女に化けて赤子をねらう鬼

「赤子はもらうぞ!」イラスト(C)合間太郎

 天正5年10月、小石伊兵衛は松永久秀の部下として、河内(柏原市)の城にこもり織田信長の軍と戦っていた。しかし落城は時間の問題。ついに小石は城を抜け、弓削(ゆげ)という所にいた妻を伴い竜田道へと逃げだした。しかし妻は身重で、峠ですでに疲れてしまった。

 2人が道から離れて休んでいると、息も絶え絶え走ってくる女がいる。見るとずっと妻の世話をしてきた少女である。声をかけると「置いていくなんて、ずっとお仕えするつもりなのに」とわんわん泣きだした。2人はそれを見て、少女をかわいく思ったのだった。

 3人はそこで休んでいたが、妻が急に産気づいた。だが月もなくあたりは真っ暗。小石はおろおろするばかりだが、少女の機転は素晴らしく、谷の水をくみ、木の枝をくべて湯を沸かし、かいがいしく世話をしてくれる。おかげで妻は元気な男の子を産むことができた。

 そして、ようやく落ちつくと妻は木の根で休み、赤ん坊は少女に抱かれた。少し寝てから妻が闇をすかして見ると、なんと少女は赤ん坊をなめている様子。「おかしなことを」とよく見ると少女の口が耳までさけて、赤ん坊の頭を口にふくんでいたのだ。妻は小石をそっとゆり起こすと、小石は忍び寄って切りつけた。しかし、少女は刀をかわしてさっと飛び上がる。見る間に鬼の姿となって岩の上へと飛び降りた。小石はまるで夢の中で戦っている感じで、刀はむなしく空を切るばかり。いつしか鬼は、いずこともなく消え去った。

 小石が元の場所に戻ると今度は妻がいない。呼べど叫べど応える声はなく、明け方になって岩の上に妻の頭が乗っているのを見つけた。小石は泣く泣く埋めると、大和郡山の南、大谷村の縁者を頼って身を隠した。その後、出家して高野山で修行の年月を過ごしたという。

 この竜田道は、河内から信貴・生駒山地を抜ける山越え道。道中、身重の女に気づいた鬼のしわざであろう。江戸時代の浅井了意(りょうい)『伽婢子(おとぎぼうこ)』の一話。古典怪談の傑作である。

 (日本妖怪研究所所長)



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