亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

大阪市東成区

2017年7月31日

生け贄の怨みに下す閻魔の裁き

「明日、判決を下す!」イラスト(C)合間太郎

 摂津国東生(ひがしなり)(現在の東成区)撫凹(なでくぼ)村に裕福な長者がいた。ある頃から重い病にかかったが、そのとき異国の神が現れ「毎年牛を1頭ずつ生け贄(にえ)に捧(ささ)げよ」と告げる。それから毎年牛を1頭ずつ殺してその神を祭った。

 7年たって7頭目を生け贄にしたとたん、病はいっそう重くなった。それからまた7年、今度は医者や薬に頼ったがいっこうに良くならない。長者は振り返って「これは牛を殺した報いではないか」と思い、それから屋敷の生き物はすべて放し、他人が生き物を殺すのを見ると、その場で買って放してやった。店で働く使用人にもそれを徹底し、殺されかけている生き物を救ってやった。

 それからまた7年たち、長者は臨終を迎える。彼は妻に「死んでも9日間はこのままにしてくれ」と伝えた。すると長者は9日目に生きかえり、死んでからのことをこう語る。

 「頭は牛、体は人という異形の者が7人現れて私に縄をかけ、立派な宮殿に連れて行かれた」と。中に入ると閻魔(えんま)がいて、彼らは「こいつに殺されました。早く判決してください。われわれを殺したようにこいつを切って食べますから」と言う。

 すると突然、千万人もの人が現れ「それは邪悪な鬼神の罪です。この人はわれわれが殺されるのを助けてくださいました」と弁護する。彼らは長者が助けた生き物たちであったのだ。それから彼らは毎日言い争った。閻魔は双方の言い分を聞き「明日まいれ」と言う。その日がちょうど9日目であった。

 閻魔の判決は、もう一度地上に戻してどのような暮らしをするか、観察してから判決するというもので「現世に戻るように」と言った。7人の異形の者は長者が地上に帰る道中、命を狙うが、千万人の人々が長者の前後左右を守ったので息を吹きかえしたという。長者は90歳あまりまで生きた。

 この話は『日本霊異記』と『今昔物語集』にある。邪神にまどわされずに仏の教えに従うように、という仏教説話のひとつである。

 (日本妖怪研究所所長)


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