亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

大東市

2017年9月12日

姑の寝間を鬼がのぞく

「鬼がのぞく」イラスト(C)合間太郎

 大阪市鶴見区ではなく大東市の茨田(まんだ)郷に伝わる話。父が早くに亡くなった小兵衛は、母との2人暮らし。母子は仲良く暮らしていたが、小兵衛が嫁をもらってから家の中が険悪ムードになる。母は女手ひとつで小兵衛を育てただけあって、つい若夫婦のやることに口出ししてしまう。嫁は母から小言を言われると、すぐに小兵衛に大げさに言いつける。そのぎくしゃくとした状態が10年も続いた。「子供が10年もできぬ女は実家に帰そうか」と、母が小兵衛に言うところを嫁が立ち聞きして、嫁としゅうとめの対立は頂点に達する。

 それからが怪談めいてくる。夜中に母がふと目を覚ますと障子のすき間から鬼の顔が見える。悲鳴を聞いて小兵衛夫婦が飛んでくるが、もはや鬼の姿はない。それから毎晩、鬼が現れ母をじっと見るようになった。母は食欲もなくなってげっそりと痩せ、ついに気力もつきたのか、病にかかって息を引き取った。そしてそれから、すぐに嫁が妊娠した。

 出産の当日はたいへんな難産で、のたうち回ったあげくに産んだはいいが嫁は意識を失った。小兵衛が子供の顔を見ようと抱きあげて仰天した。なんと口は耳まで裂け、大きな牙が2本生えている。ようやく意識を取り戻した嫁も、その子を見るなりまた意識を失った。

 その後、嫁は村の寺をたずね和尚に一部始終を話した。実は夜中に自分が鬼の面を被ってしゅうとめを怖がらせたという真相を語ったのだ。和尚は夫と2人でお母さんの供養をして観音様におすがりするように、と言うのだった。夫婦は一心に読経して、母にわび、観音様にお救いくださるようお願いするのだが、いっこうに子供は鬼の形相のままだ。近所にも鬼っ子の話がすでに伝わってしまった。

 ついに夫婦はいたたまれず7歳になった鬼の子を連れて四国八十八カ所めぐりへと旅立つ。その後の消息は知られていない。人の怨(うら)みが子にたたる話だが、その中でも悲惨な一話。因果はめぐる。人を呪わば穴二つである。

 (日本妖怪研究所所長)


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