亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

南河内郡千早赤阪村

2017年10月9日

孝行息子に恵みの下駄

「ピョンピョン、ザクザク」イラスト(C)合間太郎

 千早村(現在の千早赤阪村南部)に、狭いながらも楽しいわが家を地でいくような4人家族があった。父と母、5歳と3歳の男の子。母親はめでたく3番目の子を出産したが、数日して苦しみだし、あっという間に死んでしまった。

 しかし、家族は悲しんでばかりいられない。父は朝早くから夜遅くまで働きに行き、長男と次男が赤ん坊の世話をする。少ない米で重湯を作って赤ん坊に食べさせ、残りを兄弟2人で分けるという毎日だった。

 そんなときに、なんと父親が病気で倒れてしまった。長男は一生懸命看病し、家の家財道具を売りに行っては少しの金で薬を買う。しかし、それも底をついて父親の病気も良くならない。長男が「働いて返しますから」と、薬屋の土間に頭をすりつけて頼んでも追い出され、途方に暮れているとそこに1人の白ひげの老人がやってきた。

 長男の様子を見て「何か欲しいものはないか」と聞く。「おとうの薬を買うお金が欲しい」と答える。「ならば、これをやろう」と履いていた一本歯の下駄(げた)の片っぽを長男に渡し、「誰も見てない所で、片足でぴょんぴょん跳びながら欲しいものを願うと手に入るぞ」と言う。

 長男は誰もいない地蔵堂の裏に行って下駄を履き、跳びながらお金が欲しいと願ったら、下駄の下から大判小判がざくざく出てきた。そのお金で高価な薬をたくさん買うと、父親もしだいによくなって働けるようになった。

 そんなある朝、また例の老人がやってきた。長男は「ありがとうございました」と心から感謝した。「他に欲しいものはあるか」と老人が聞くので「もう何もいりません」と答えると、「ならば返してもらうよ」と、老人は地蔵堂にあった下駄を履いてどこかへ消えてしまった。願い事は本当にピンチのときだけかなうのがいい。それ以上の願いは欲でしかない。この老人は天狗(てんぐ)かな、役小角かな?

 (日本妖怪研究所所長)