亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

八尾市

2017年11月6日

丈夫な狐人形と、丈夫で元気な男の子

「どちらも丈夫。眉間の傷もおんなじ」イラスト(C)合間太郎

 八尾のある長者の家にお嫁さんが嫁いできた。夫の家族からは大事にしてもらっているが、7年たっても子供ができなかった。そんなある日、京都の伏見稲荷で狐(キツネ)の人形をもらうと子供が授かると聞き、さっそく夫婦は伏見へと向かった。

 2人が「子宝に恵まれますように」と祈願すると、神主が小さな祠(ほこら)に案内してくれて「この箱の中に狐の人形が入っています。どれでも好きな人形を選んで引いてください」と言う。嫁が手を入れると、たしかに人形が手にあたる。でもどれがいいのか、つい迷ってなかなか引けない。するとだんだん人が後ろに並んできて「まだか」「はよせえ」と声がかかる。嫁はあわてて人形をつかんで引き上げた。

 見るとすごく汚れていて、しかも眉間に傷のある狐人形であった。「ああ、あせってとんでもない狐を引いてしまった」と涙ぐむ嫁を、夫はなぐさめながら八尾へと帰って行った。

 2人は疲れて峠でひと休み。嫁は土でできた狐人形の、汚れて傷のある顔をながめていたが、いきなり近くの岩にたたきつけた。びっくりした夫がひろってみると、不思議に無傷でどこもこわれていない。泣きだす嫁を「ほら、こんなに丈夫な人形やから、きっと元気で丈夫な子が授かるよ」と夫はなぐさめ、はげました。嫁も気を持ち直して人形を持ち帰り、神棚に祀(まつ)って朝晩おがんだ。するとついに懐妊し、元気な男の子を授かったのだ。

 男の子はすくすくと育ち、元気に遊んで着物もすぐに汚してしまう子で、大きくなってからも朝から晩までまっ黒になってよく働いた。そんな活気があってほがらかな子供を見て、夫婦もその両親もうれしく、一家は幸せであった。しかし、その子の眉間の傷だけは生涯消えることがなかったという。

 ちなみに、伏見稲荷の境内に「産場稲荷」というのがあって、そこの狐穴に手を入れると安産できると言われています。

 (日本妖怪研究所所長)


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