亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

東大阪市菱江

2017年12月18日

ガタロの願いを踏みにじる男

「卵だけでも助けてくれ〜」イラスト(C)合間太郎

 大阪の妖怪話は、それほどバラエティーに富んでいるわけではない。狐(キツネ)、狸(タヌキ)、天狗(てんぐ)など代表的なものが多く、河童(カッパ)もそのうちのひとつだ。大阪の場合、ガタロとかカワタロウと言う。

 昔、菱江村(東大阪市)のあたりに川魚を取る和助という男がいた。一本釣りではなく、網ですくうので小さな魚も根こそぎ持っていく。網も地形に合わせて丸だけでなく、ひし形や三角など数種類持ち歩き、川でも池でも魚がなくなるまですくうのである。

 ある日のこと、和助はいつものように、ビクにいっぱいの魚を入れて帰ろうとすると、池の中から声がする。見るとギョロリとした目玉の小男が池の中から呼んでいる。

 「和助、頼みがある」「あっ、ガタロやな。なんの用や」「お前がいつも魚を根こそぎ持っていくんで、みんな泣いてるんや。せめて小さい子どもの魚や、卵を持った魚ぐらいは返してくれ。そやないと、ほんまにこのへんの魚は全滅や」と涙ながらに訴え、水かきのある手を合わせて拝んでいる。

 そんな姿を見ても和助は「何を言うか、わしも商売や、つべこべ言うな」「そやけど、魚がおらんようになったら、お前もこまるやろ。せめて卵だけでも助けてやってくれ」「どあほのガタロ。魚連中によう言うとけ。そんなにこまるんやったら、和助さまの網にかからん逃げ方を考え、とな」

 ガタロは和助を見つめ「魚の子供を殺すんやったら、お前とこの和太坊をさらうぞ」と言う。和太坊とは和助の幼いひとり息子だ。「こら、わしをおどす気か。これでもくらえ」と網の柄でガタロの皿を思いきりなぐったからたまらない。「ギャーッ」と悲鳴をあげて、ガタロは池の中に沈んで行った。それから3日後、和太坊は池に落ちて死んでしまった。

 たいていの昔話や伝説は、妖怪より人間の方が悪い場合が多い。妖怪は正直者で環境の保護者であったりする。特に河童は水の神様でもある。和助に天罰が下ったのである。

 (日本妖怪研究所所長)