亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

八尾市福万寺町

2018年1月22日

大蛇のかま首、地蔵の首

「かま首がグアーッ」イラスト(C)合間太郎

 八尾市福万寺町にある三十八(みとや)神社付近に南北朝時代、文和年間(1352〜55)の頃、福万寺城というお城ができた。近江源氏の流れをくむ佐々木家の城であった。

 その城の西南に井戸があって、福万寺城にとっては大切な飲み水である。当時は敵に毒など入れられぬよう、井戸の警戒は厳重そのもの。その大切な水を守るのにわざわざ砦(とりで)を築いて、寺田という侍が番に当たっていた。

 ある夏の夕暮れ、旅の僧がやって来て「もう日が暮れます。盗賊や追いはぎに遭うやもしれません。どうか一晩、泊めていただけないでしょうか」と言う。寺田は親切に「なんのもてなしもできませんが、うまい水はあります。どうぞお泊まりください」と言い、城の道具小屋に案内して「このような所ですが」と、粥(かゆ)など炊いてもてなした。

 その夜遅く真っ暗な中、砦に怪しい人影が忍び寄る。こともあろうに盗賊たちが、旅の僧が泊まっている道具小屋に近づいて、戸をこじ開けようとしているのだ。ところが「ギャーッ」という声とともに飛び出してきたのは盗賊の方。見るとかま首を持ち上げた大蛇が入り口でにらんでいる。盗賊の親分はにらみ返し、ひるむことなく刀を抜いて大蛇の首を切り落とした。だが、首はグアーッといううなり声とともに親分の首に食らいつく。「これはたまらん」と親分は逃げ出し、盗賊一味も全員、クモの子を散らすように逃走した。

 次の朝、寺田が道具小屋の前で見つけたのは、首のないお地蔵さん。「そうか、あのお坊さんはお地蔵さんだったのか。きっと盗賊がやってくるのを知って助けてくれたにちがいない」と、その後、道具小屋をお堂に改修して、首のない「首切り地蔵」を祀(まつ)ったという。

 もし、寺田がいじわるな男で泊まるのを断ったら、盗賊にやられたかもしれない。

 とうの昔に廃寺になったお寺だけに、くわしいことはわからないし、地蔵も今はない。

 (日本妖怪研究所所長)