亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

大阪市北区兎我野町

2018年2月6日

子泣きじじいのような化け地蔵

「地蔵さん、何するんや」イラスト(C)合間太郎

 兎我野町に伝わる、マンガに出てくる子泣きじじいのような話。その町に住む市松という男は、毎日カゴいっぱいに野菜を入れて天満の青物市場に納めに行っていた。

 ある日のこと。青物市場で業者の寄り合いがあり、酒も出て、ほろ酔い気分で帰ってきた。あたりが少し暗くなりかけた頃、道端に年老いたばあさんが寝ていて、か細い声で「あんさん、ここから兎我野へはどう行ったらよろしいか。さっき転んで足がいとうて」と言う。市松は「それは気の毒に。わしも今から兎我野に帰るとこや、歩かれへんかったら、わしがおぶったろ。ちょうどカゴがからや。中に入り」と言ってばあさんをカゴの中に入れ、よいしょっとかついだ。

 かついでみると、そのなんと軽いこと。これやったら走って帰れるとタッタと行き始めた。ところが毎日通る道のはずが、いつの間にか迷っている。見たこともない道を通ったり、いつしか同じ場所に戻ったり、おかしなことになってきた。そうこうするうちにカゴがだんだん重くなって、歩くのも難しく、ついにはへたりこんでしまった。

 「ばあさん、もうアカン、重すぎる。おりてくれ」と言うと「いやじゃ」というしわがれた声。しかも老婆の手が首を絞めてくる。その手の冷たいこと、固いこと。「苦しい、誰か助けて!」と叫ぶが、老婆はなおもグイグイ絞めつけてくる。もうだめだと思ったとき「あんた、何あほなことしてんのや」と声がかかった。よく見ると市松は石の地蔵をかつごうとしていたのだ。

 地蔵はたいてい人を幸せにする存在であるが、こんな化け地蔵もいたのか、それともキツネの仕業なのか。井伊直弼らが暗殺された「桜田門外の変」のあった1860(万延元)年頃の話。

 (日本妖怪研究所所長)


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