亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

和泉市井ノ口町

2018年2月19日

大芝居を打つ悪狐集団

「すごい花嫁行列や」イラスト(C)合間太郎

 和泉市の井ノ口村(井ノ口町)に金持ちの両親と息子がいた。そこにひょっこり板原村(泉大津市板原町)の老夫婦が訪ねてきて「わしらの孫娘をもらってくれんかの」と言う。そろそろ息子の嫁のことを考えていたときで、さっそく老夫婦の家を訪ねることにした。

 行ってみてびっくり。自分たちもそこそこの金持ちと思っていたが、相手はとんでもない大金持ちで、大きな御殿に使用人を何十人も使っている。老夫婦の心遣いもうれしく、すっかり気分がよくなったところへ、いよいよ嫁御の登場である。見ると上品な顔立ちで、気立てのよさそうな娘である。その場ですっかり気に入ってしまった。

 それから2日後に結納を納め、3日後に婚礼というスピード結婚。その日、井ノ口村では豪商の家の娘が嫁いでくるというので、村中の者が花嫁行列の到着を心待ちに待った。しかし、夕方になってもやってこない。使いの者を何人か出して迎えに行かせたら「すごい行列です。板原村の者が全員やってくるそうです」と言う。他の使いも戻ってきて「もうすぐ肥子村(和泉市肥子町)です。森も林も提灯(ちょうちん)だらけです」と報告する。

 いよいよ期待に胸ふくらませるが、それからいつまで待ってもやってこないし、他の使いも戻ってこない。もはや深夜であたりは真っ暗。いらいらしながら両親は息子を連れて迎えに行った。見ると提灯がたくさん見える。しかし、見る間にぽつぽつと消えていくのだ。やがて真っ暗になって恐ろしさで腰を抜かしかけたところへ、家の方から呼びにきた。「早く帰ってこんと。嫁御はとうに着いとるで」。その言葉を聞いて、あわてて引き返すと、家の中も外も荒れ放題。用意していた婚礼のごちそうは、みな食い散らかされていたという。

 この近くには信田の森もあり狐塚古墳もある、全国でも珍しい由緒ある狐(キツネ)の名所なのだが、そんな中に、こんな手の込んだ化かし方をする悪狐集団もいたのかもしれない。

 (日本妖怪研究所所長)