亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

茨木市福井

2018年4月16日

赤飯と油揚げしか食べない嫁

「ここでいっしょに暮らしましょう」イラスト(C)合間太郎

 その昔、茨木市の福井に評判の良い男がいた。人から勧められて丹波の山奥の女性を嫁にもらったが、これがもう美人でよく働いて気がきく。だが不思議なことに、夫のためにはいろいろ料理を作るが、自分は赤飯と油揚げしか食べない。それでも他に非の打ちどころのない嫁なのである。

 その食事の話がいつしか近所でも知られるようになり、前々からうらやましく思っていた連中が「ひょっとしたら狐(キツネ)やないか」「いっかい松葉でいぶり出してみたらええ。狐の尻尾が出るかもしれんぞ」と勝手なことを言う。夫も最初は相手にしなかったが、あまりに何度も言われるので、一度やりさえすれば納得するだろうと村人の言うのを承知した。

 ある夜、妻が寝たあと用意した松葉に火をつけた。もうもうとした煙の中、妻のふとんをめくってみたら、もぬけのから。「ああ、取り返しのつかないことをしてしまった」と、神仏に祈るが妻は帰ってこない。半年ほどして妻の郷里の丹波の山奥まで行って探してみたが、なかなか見つからない。もちろん好物の油揚げを持って…。

 とぼとぼと丹波の峠を越えて林の中を歩いていると、なんとそこに、うるわしい妻が手招きしているではないか。夫が「さあ、帰ろう」と言うと「もうあの村には帰りたくありません。それよりここで一緒に暮らしましょう。こんなにお金もありますし」と言う。だが、周りには落ち葉ばかりでお金などどこにもない。と思った瞬間、たくさんの落ち葉がみんな大判小判に変わった。驚いた夫は引き寄せられるように妻の元へ…。それ以後、2人の姿を見た者はいないという。

 狐が化けた女は魅力的というのが昔話の定番だ。今や人間ではなく、バーチャルな女性を愛する若者が増える世の中。それならいっそ狐の嫁の方がいいかな。

 (日本妖怪研究所所長)


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