亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

八尾市神立

2018年5月14日

鬼の心に明かりを灯した子

まるで本当の親子のよう(イラスト(C)合間太郎)

 八尾の神立(こうだち)村での話。神立から奈良に続く十三(じゅうさん)峠のふもとに、貧しいながらも幸せに暮らす母子がいた。ある日、ヤマイチゴを採ってこようと母は十三峠を登ったが、4日も帰ってこない。村人に助けを求めても「この頃は鬼が出るので」と断られる。仕方なく大事な薬つぼと小刀を持って幼い息子は母を探しに峠を登った。

 するとヒゲモジャで体がまっ黒な鬼が現れ「小僧、なにしに来た!」と言う。「母ちゃんが帰ってこんのや、おじちゃん知らんか」と聞くと、鬼は「ほお、わしはおじちゃんか」と笑い、山へと息子を案内した。

 見るとそこには縄でつながれた母がいた。「鬼め、よくも母ちゃんを!」と言うが「わしは鬼と違う、人間や。ツノがないやろ」と言って「かわいい小僧やなあ」とギュッと抱きしめた。息子は抱かれながらも小刀を出して男の背中に突きさした。「いたたた」と、その場に男が倒れると、母が「この人は悪い人やない。話し相手がほしかっただけや」と言って、息子が持ってきたつぼの薬を出し、男の傷口にぬってやった。

 数日後、回復した男は「久しぶりに人間らしい気持ちになったわ」と、たくさんのヤマイチゴを2人に渡してくれた。彼は幼い頃、峠に捨てられ山で獣相手に育ったと言う。

 それからというもの母子は村人がとめるのも聞かず、男に会いに食べ物や着る物を持って、ウキウキと峠を登って行く。そんな日々が繰り返され、いつのまにか本当に帰ってこなくなった。でも同時に鬼も峠に出なくなって、夜でも歩いて登れるようになったという。

 全国に十三塚(墓)と言われるものがあるが、ここの十三峠にも十三塚があり、今でも十三の塚が完存する。大きな塚は、神武天皇の皇后の御陵で小塚は殉死者の塚であると言われ、塚に触れるとたたりがあり、塚に祈ると災難や疾病が平癒すると言われている。余談になったが、夜道の十三峠は、なるほど恐ろしかったものと思う。

 (日本妖怪研究所所長)