亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

和泉市鶴山台

2018年6月12日

化けるのうまい、いたずら狐

仏様の手がニュー……(イラスト(C)合間太郎)

 日暮れの道を男は家路を急いだ。商売の帰りが遅くなったのだ。ようやく近くの池のあたりまでやってくると、なんと若い娘がはしたなく、道ばたで足を投げ出している。

 「おじちゃん、足が疲れてもう歩かれへん。おんぶして連れてってえ」と言う。若い娘の誘いだが、これと同じ話をつい先日、人から聞いたところだ。この池のあたりにすむ狐(キツネ)にだまされて、もっていた干物を全部盗まれたというのを。

 「さてはこいつか」と思いながらも「ええでお姉ちゃん、おぶさり」としゃがむと、娘は喜んで背中に乗ってきた。そのとたんに男は帯を解いて娘をグルグル巻きにして、逃げないように家まで走って帰った。

 家に着いて娘を下ろしてみたら、なんと背中に抱えていたのは1本のほうきであった。「これはほんまに狐の仕業やな」と思いつつ、自分の家のほうきと並べて見て「ほう、こりゃ、ええほうきや」とほうきの毛を抜こうとすると、そのほうき、ピョンと飛び上がって仏壇の中に飛び込んだ。

 見ると今度は仏様が2体になっている。男はちょっと考え、油揚げを用意して仏壇に供えてこう言った。「あれえ、うちの仏様は油揚げを供えたら、いつも手え出すのになあ」と。見ると片方の仏様の手がニューッと伸びて、油揚げをつかもうとしている。男はさっとその手をつかみ「このど狐め!」と、さんざんほうきで打ちのめしてこらしめた、という話である。

 和泉の里は昔から狐伝説の多い所。信田の森の狐のような有名な話と違って、小品のいたずら狐の伝説も多い。

 (日本妖怪研究所所長)