亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

千早赤阪村

2018年7月23日

化け物の罠にかかった飛脚

「兄ちゃん、おんぶして〜」おっとあぶねえ(イラスト(C)合間太郎)

 昔の話の中に、飛脚が襲われる話がいくつかある。人の大事な手紙や金品を運ぶので、狙われることもあったのだろう。今回は赤阪村に手紙を運んだ、若い飛脚の話である。

 その飛脚は出発する前に親方から「途中で化け物が出る沼があるから気をつけて行け。どうせ狸(タヌキ)かむじなの類いだろうから、何を言われても口さえきかんかったらええ。ぜったいに返事をするな。返事をすると悪さをしよるから、無視してさっさと届けるんやで」と、しつこいほどに言われる。

 さて、しばらく行くと、その大きな沼の堤にさしかかった。向こうから来たきれいなお姉さんがすれちがいざまに、「飛脚さん、何か落としましたよ」と声をかける。思わず「えっ」と言いそうになって、あわてて口をつぐんだ。「あぶないあぶない、そうか、こういうことか」と、気を取り直して先へと進む。

 今度は籠かきたちがやってきて「兄さん、この道行くんやったら、ちょうど帰り籠や、乗っていき」と勧める。「おおきに」と言いかけて、手で口をつぐんだ。

 お次は道ばたで足から血を流しているおばあさんが、「おんぶして〜」と言ってきた。もちろん無視して行こうとすると、今度は小さな女の子が草むらで遊んでいる。見ると、後ろから大きな蛇が、かま首もたげて今にも飛びかかりそうだ。あわてて「あぶない」と言って、女の子を抱きかかえた。

 そんなこんなでやっとこさ、赤阪村に到着。手紙を名主に渡すと「待ってたで、大事な手紙なんや」と開けてみると、中はなんとまっ白。飛脚は大目玉を食らったのは言うまでもない。1956(昭和31)年に千早村と合併する、ずうっと昔の赤阪村の話。これでもかこれでもかと、お化けが罠(わな)を仕掛けるのがおもしろい。

 (日本妖怪研究所所長)


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