亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

八尾市神立

2018年8月20日

何度直しても横を向く地蔵

「ああ、帰りたいな〜」(イラスト(C)合間太郎)

 八尾市の神立(こうだち)村にかわいい兄姉があった。まだ幼いというのにどういう理由か、大和(奈良)の方へもらわれていった。2人はおとなしくしてはいたが、なんとも神立村が恋しくて、ついに大和を抜け出し、神立へと向かった。

 本来なら十三(じゅうさん)峠を通って帰るところが、早く帰りたい一心で近道を選んだ。だがなんと、途中で山賊に出くわしたのだ。兄は必死に抵抗したが、結局、2人とも身ぐるみはがされ惨殺された。そのあまりの無残な死にざまをかわいそうに思った村人たちが、そこに2人の供養の地蔵を建立した。

 幾日か過ぎて村人が奇妙なことに気づく。建てたときはたしか、道の方にまっすぐ正面を向いていたのが、いつの間にか横を向いている。何度も向きを正面に直すのだが、またもや横を向いている。不思議なこともあるものだ、とうわさをしているところへ修験者が通りかかり、話を聞くと「その神立村は、どっちの方向じゃ」と言う。「だいたいこっちの方…」と言いかけて、村人たちは初めて気づいた。子どもたちは地蔵になっても、まだ神立に帰りたがっていることを。

 それで、こんな山賊の出たような暗い道に置かずに、もっと明るくて神立村が見えるような場所に移そうということになった。それからは、地蔵も横を向くことがなくなったという。

 ちなみに、この山賊の出た道は「おど越え道」と言い、今の「おうと越」にあたるものと思う。現在も十三峠との分かれ道を示す道標があるが、本当にそちらが近道かどうか、よくわからない。そんな道を幼い2人は近道と思い、手に手を取って必死に駆けた。よっぽど故郷に帰りたかったのでしょうね。

 (日本妖怪研究所所長)


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