亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

岸和田市包近町

2018年9月3日

鬼が苦手な果物とは

「おまえ、俺の嫁になれ」(イラスト(C)合間太郎)

 今年12歳になるかわいい女の子が野原で草摘みをしていると、どこからともなく赤鬼が現れて「俺の嫁になれ」と言う。後からやってきた青鬼と黒鬼も「兄貴の嫁にふさわしい、さっそくおまえの両親に会いに行こう」と、嫌がる女の子を引ったてるようにして連れて行った。家に着くと両親は「まだ家の用事もできない娘だから」と断ると、赤鬼が「3年待ってやろう。その間に立派な花嫁に育ててくれ」と言い残して去って行く。

 このことは人々の口に伝わり、寺男で五郎という若者の耳に入った。「鬼のくせに、人間の女の子を嫁にするとは許せん」と言って山の中に鬼を探しに行くと、向こうにたき火が見えた。例の鬼が3匹、うまそうにイノシシの肉を食べている。「兄い、かわいい嫁が見つかってよかったですねえ」「包近(かねちか)村には、桃の木がないから入り放題よ」「そうそう、桃をぶつけられたら、わしらおだぶつやからなあ」と話している。

 五郎はしめたと思い、急いで帰って和尚に話すと、紀州の知り合いの桃を育てる名人を紹介してくれて、働かせてもらうことになった。だが桃は作るのに時間がかかる。それを1年でひと通りのことを習った五郎は、主人からいっぱい桃の苗木をもらい、女の子の家の周りに植えた。

 3年がたち、鬼どもが何も知らずに女の子の家を見て腰を抜かした。恐ろしい桃がたわわに実っているのだから。こりゃたまらんと逃げ出すところを、村の若い衆が総出で、ちぎっては投げる桃爆弾で鬼を退治し、ようやく落ち着いた。その後、女の子と五郎は夫婦になって、めでたしめでたし。

 実際の包近町は、ギネスブックに載る糖度ナンバーワンの桃を出荷する名産地である。この五郎の桃から栽培が始まった、のかな?

 (日本妖怪研究所所長)