亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

富田林市甘南備

2018年9月17日

雷を天に帰した男

「おおきに、これで天に帰れます」(イラスト(C)合間太郎)

 富田林市甘南備(かんなび)の峠に鬼が出るといううわさが流れ、たいていの人は怖がって遠回りするところを、一人の男が「鬼が出るって。そりゃおもしろい、いっぺん見たかったんや」と、のんきなことを言いながら峠へと向かった。

 するとホンマにでっかい鬼が出てきた。さすがに間近で見ると恐ろしい。「鬼さん、かんにんや」と言って逃げようとすると「ちょっと待て、わしのどこが鬼や。よう見てみ、わしゃ雷や」と言う。「えっ、雷は雲の上と決まっとるやろ」「落ちたとき、太鼓をなくして天に帰れんようになったんや」と言い、ようやく事情がわかった。

 「雨が降って、稲妻が走ったら天に帰れるんや。おまえ、雨降らしてくれへんか」と頼んでくる。そんなもんできるわけない、と言いかけたら、向こうの山から黒雲がこっちに向かってくるのが見えた。男は「しめた」と思い「雷はん、もし雨降らせたら、何くれる?」とあつかましく聞くと、「この鍾馗(しょうき)の絵の札をやろう。これでさすったら、どんな病気でもたいてい治る」と言う。鍾馗の絵は、厄よけ、疱瘡(ほうそう)よけに効くと言われ、弓の名手、源為朝(みなもとのためとも)や坂田公時(さかたのきんとき)(金太郎)といっしょに、江戸時代の病気よけの人気キャラクターだ。

 さて男は、それらしい呪文をごにょごにょとなえると、ちょうど黒雲が頭の上に来て、雨がザーッと降ってきた。おまけに稲妻も走る。雷は大喜びで「おおきに、これで天に帰れます」と言いながら、稲妻をつかまえてするする上って行った。それから男は、雷からもらった鍾馗の絵札で病気の者を次々と治し、富田林で有名な医者になったという。

 唐の玄宗皇帝(げんそうこうてい)がマラリアにかかってふせっていたとき、夢の中に鬼の姿の鍾馗が現れ、病魔である小鬼を退治して病気が回復したという伝説がある。うちにも1枚、鍾馗の絵がある。今度、風邪でもひいたら体さすって、壁にかけてみようかな。

 (日本妖怪研究所所長)


最新記事