亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

富田林市廿山

2018年11月13日

天狗対吸血河童 引谷池の戦い

「惣太おぼれて河童のえじきの図」(イラスト(C)合間太郎)

 富田林の錦部村に惣太という5歳の子がいて、両親はいつも「惣太、引谷池にはぜったい行くな」と口をすっぱくして言っていた。というのは池に凶悪な河童(カッパ)がすんでいて、子どもを引き込んでは尻の穴から血を吸うのである。ある日、惣太が遊んでいると近所の次郎がやってきて立派なエビガニを見せびらかした。それを見た惣太は欲しくてたまらない。聞くとカエルを竹ざおの先にぶらさげて釣るらしいが、場所をぜんぜん教えてくれない。

 そこで惣太は5歳の頭で考えた。まだ行ったことがない所というと、引谷池しか思いつかない。さっそく行って竹ざおにカエルをつけて池に垂らすと、何かが引っ張ってくる。「やった大物や」と思ったが、向こうの方が強い。惣太はズブズブと引き込まれてしまった。

 村では惣太がいないので大さわぎ。八方さがしたが見つからない。ひょっとしたらと思い、行ってはいけないと言い聞かせていた引谷池にも行ってみた。すると池に惣太があおむけになって浮かんでいて、もはや血は一滴も残っておらず、まっ青だった。

 それから両親は気落ちして働くこともできず、食べ物ものどを通らない。そんなとき、一人の修験者が通りかかり、かわいそうな様を見て葛城山の天狗(てんぐ)に頼めば、ひとつだけ願い事を聞いてくれると言う。それで2人はふらつきながらも葛城山へ行き、「天狗さん、惣太の仇(あだ)を取ってください。引谷池の河童をやっつけてください」とお願いして回ったが、天狗に会えることもなく山中で息絶えてしまった。それからしばらくして、引谷池にまっ青な河童がぺちゃんこになって浮かんでいた。天狗が言うことを聞いてくれたのだろうか。

 ひと言だけ願いを聞いてくれるというのは葛城一言主(かつらぎひとことぬし)神社のことと思う。しかし、天狗かどうかはわからない。舞台となった引谷池は農業用のため池として現存し、水神さんの祠(ほこら)がある。はたして水神が河童かどうかもわからない。

 (日本妖怪研究所代表)


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