亀井澄夫の妖怪不思議千一夜

高石市取石

2018年11月26日

しとしとと雨の降る日にきた娘

「私は里へ帰ります」(イラスト(C)合間太郎)

 昔、取石村(とろしむら)に太助という男が、寝たきりの母親と暮らしていた。母の看病をしながらの毎日なので働くのもむずかしく、生活は苦しく貧しかった。ある夜、戸をたたく者がいて、開けると若い娘が立っている。外は、しとしと雨が降っているのに傘もささず着物もずぶぬれ。どうか一晩だけ泊めてほしいと言う。かわいそうにと家に入れてもてなした。

 次の日、娘が「お礼に、せめてお母さまのお世話を少しの間でもさせてください」と言う。それで母の看病をまかせたら親身になってよく世話をする。母も喜んで娘をかわいがり頼りにもするようになった。2、3日のつもりがずっと暮らすようになり、おかげで太助は娘に母をまかせ出稼ぎに行けるようになって、暮らしもだいぶよくなった。

 1年ほどたった頃、娘は太助の子をみごもった。出産の日が近づいて娘はやってきたときのような、しとしと雨の降る晩、里に帰って赤ちゃんを産み、また戻ってきますと言って出て行った。母は太助を「夜に行かせて何かあったらどうする、いっしょに行ってあげなさい」としかるのだった。太助もうっかりしていたと後を追ったが里がどこなのか、そんな話もせず今まできたのでわからない。とにかく追いかけ、取石池のあたりに来たとき赤ん坊の泣く声がした。

 声のする方を見てびっくり。大きなナマズが、生まれたばかりの赤ん坊を抱いていたのだ。「あっ」と言うと、ナマズは太助を見て赤ん坊を置き、するすると取石池の中に消えてしまった。それ以来、娘の姿を見た者はいない。だが2人の間の子どもはすくすく育ち、取石村の長者となって太助と母に孝行したという話である。

 取石池は万葉集にも出てくる古代の池。今は埋めたてられて存在しない。また、魚が人間と夫婦になる話は全国にある。しかし最後はいつも正体が知れて、悲しい別れが待っている。化け物の宿命としか言いようがない。

 (日本妖怪研究所所長)