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「かいこ」さん

 112.jpg 長野県松本市を旅した時です。現地の方と養蚕の話になりました。驚いたのはカイコの呼び方です。彼は「おカイコ」と何度も繰り返しました。カイコと呼び捨てにするのではなく、ていねいな意味を持つ接頭語の「御」をカイコの上に付けたのです◆これを聞いて子どものころを思い出しました。幼いころは近所に養蚕農家がまだ残っており、春から夏にかけての養蚕風景を見ることができました。庭に小型のビニールハウスのようなものを建て、桑の葉を敷き詰めます。その中には白い小さなカイコが無数にいました。夜はまだ寒く、煉炭をつけて暖めていたこともあったはずです。養蚕農家に遊びに行くと、おばあさんがカイコを手にとって見せてくれたことがありました。「これが、カイコさんだよ」◆おカイコとカイコさん。カイコはその小さな身で一大産業を興し、農家に貴重な現金収入をもたらしてくれたのです。それで、当時の人々は「さん」「御」という言葉を駆使してカイコへの敬意を表現したのでしょう。養蚕は間違いなく鳥取県の近代史の大きな一こまなのです。そんな養蚕を描く企画が本紙文化面で始まりました。鳥取市のやまびこ館の企画展にちなんだ内容で、これからの展開が楽しみです◆ちなみに、現在進行中の新聞小説「手のひらを太陽に!」は製糸場を世界遺産にしようという若者たちが主題です。何か養蚕・製糸業を通して明治時代に注目が集まっているような奇妙な符合を感じます。養蚕で地方が輝いていた時代。そこには地方主権が叫ばれながら閉塞に悩むわれわれが求める答えがあるのかもしれません。(理)

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