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一刀両断 −小林 節− 公務員と入れ墨
2012/05/15の紙面より
入れ墨(刺青)にも色々ある。まず、自分の趣味として、いわば化粧やアクセサリーの一環として、任意で入れた墨は、まさに、「表現の自由」という人権の行使で、誰にもとやかく言われる筋ではない。他方、江戸時代にあったという、島流し(流罪)の前科者の印として強制的に入れられた墨は、仮にそれが現代で行われたら、傷害罪であり、典型的な人権侵害である。さらにもうひとつ、(任侠団体ではなく)犯罪組織(つまり反社会的団体だと公式に認定された組織)の構成員がいわばその「商売道具」のように、他者を威嚇するために入れた墨がある。
あろうことか、市役所の職員が公務の過程で入れ墨を示して市民を脅した…などという疑惑が発覚した場合に、市長が、その事実確認と善後策の一環として、全職員に対して入れ墨の有無等について調査することは、不可欠で、それだけに正当な事である。それに対して、「プライバシー」という人権を持ち出して批判するなどということは、筋違いである。 まず、憲法は、全ての人権は濫用されてはならず公共の福祉に従わなければならない(12条、13条)と明記している。それに、公務員という立場は、もとより「全体の奉仕者」(15条2項)であり、単純に人権を振り翳(かざ)してよい私人の立場ではない。公務員は、公費(税金)で雇われ、個人の力を超えた公権力を預かり行使している者である。だから、公務員が犯罪組織の一員であるとしたら、それだけで欠格事由になる。そういう意味で、具体的な事例が発覚した直後に、他の公務員にもそのような事実がないか?は、正当な公的関心事(つまり公共の福祉)である。 もちろん、調査の結果、何人かの公務員が「悪しき」入れ墨をしていることが発覚したとしても、それで即、その者たちが解雇されるべきだと言う訳ではない。 次は、そこから、人事権者による慎重な手続きが始まることになろう。まず、その入れ墨が反社会的団体の構成員の証しであるか否か?が確認される。次に、それがその証しであるならば、今でもその構成員であると認定された場合には懲戒解雇は免れないであろう。 もちろん、その手続きに際しては当人に十分な弁明の機会が与えられるし、訴訟による救済の途も残されている。 (慶大教授・弁護士)
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