これからの日本のホテル業界を背負って立つような若手のホテルマンはいないのかと考えてみるが、残念なことに適当な人物が思い当たらない。日本に進出している外資系ホテルのGMの年齢を調べてみると、30代から40代の人たちが結構いる。
ニューヨークのウォルドルフ・アストリアのGMは44歳である。米国を代表するあの巨大なホテルの総責任者が44歳であることに驚嘆したのを覚えている。欧米のホテルにおけるGMの業務は激務なので、60代のGMでは体力的に到底務まらないと聞く。
われわれが日本のホテルで間近に見る日本人GMの仕事ぶりとはだいぶ違う。欧米のGMの仕事は現場100%(オペレーション重視)だが、日本は現場50%、経営50%、主に財務に関わる仕事に多くの労力を費やしている。日本では金融機関などの信頼性の確保や年功序列制度の余韻から、体力のある若手より経験豊かな高年齢者がGMに就くのだろう。
それなら欧米のGMたちが財務問題に疎いか、というとそういう問題ではなく、財務は彼らの責任範囲外なのだ。日本式ホテルの場合、経営と現場責任者が一体と見るスタイルが昔から続いている。こうした日本独自のホテル組織は、統一性には優れているが効率的ではないと認識されつつも、伝統を崩すにはいま少し時間が必要のようだ。
バブル崩壊後、遺憾ではあるが、日本ではホテルが不良債権の代名詞となり、不振のホテルの多くがファンドの手に渡ることになった。その結果、ファンド自体はホテルビジネスについては素人。所有と経営、運営が分離され、責任範囲が明確化される。日本のホテルビジネスの近代化が、皮肉にもファンドの介入によって始まっているのである。
(ホテル・旅館プロデューサー)