支援受け理美容はさみ輸出 菊井鋏製作所(和歌山)

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大によって、海外とのビジネスが難しい状況が長期化している。一方で国内需要も低迷しており、海外との往来が一部緩和される中で、海外への可能性を探る中小企業もある。いきなり海外に出店するのではなく、強みのある商品の輸出から始める中小企業の海外ビジネスの「最初の一歩」を事例で紹介するとともに、専門家に海外の市場動向や進出時の注意点などを聞いた。

 和歌山市で理容師、美容師が使うはさみを作っている菊井鋏製作所(キクイシザース)は1953年創業の老舗企業。菊井健一社長を含め10人の職人集団が金属の溶接、グラインダ砥石(といし)や研磨ベルトでの研磨研削、刃つけなど全て手仕事で金属を加工している。独自製品に強みを持つ老舗の中小企業が中小企業基盤整備機構の支援を得て輸出に踏み出した。

 モットーは「使いやすく長く愛される『道具』づくり」。モットーを具現化した主力製品が耐摩耗性に優れ、切れ味が長続きするコバルト基合金が材質の「コバルトシザー」。「どんな環境でも絶対にさびることのないタフな鋼材」で、同社が世界で初めて開発し、1973年に発売した。湿気が多かったり、パーマ液に触れたりする理美容室にも最適で定番商品となっている。価格帯は8万円台からで、受注生産のため1カ月ほどかかる。

 老舗であり、同社の製品を長く使っている店のオーナーが「スタッフやお弟子さんに勧めてくれる」ことも多い。理由の一つがユーザー一人一人に合わせたオーダーメードの受注生産。はさみのリングの大きさや小指掛けの位置など顧客の細かな要望に真摯(しんし)に応えている。

 例えば、完成前の製品を顧客に送って実際の感覚を確認してもらい、その後もLINEで微妙な位置の修正などに対応することもある。「修理を繰り返すたびにユーザーの手になじんでいくのが魅力」として毎日のセルフメンテナンスを勧めるともに、それでも切りづらい場合は「トラブルが大きくなるのを防ぐため、メーカーに送って下さい」と話す。

 海外販売のきっかけは、2016年に中小機構の海外ビジネス戦略推進支援事業を利用したこと。海外展開の事業計画策定やミーティングを繰り返した上で、中小機構の担当専門家と米国ロサンゼルスを訪問し、現地の美容師や理美容関連用品の業者とも会った。

 現地の理美容店から「菊井のはさみは入らないか」という声が上がっていた時期でもあり、「補助金もあって同行支援はありがたかった。事業承継も考えており、タイミングも良かった」(菊井社長)と振り返る。

 菊井社長は「まだ輸出している数量はそれほど多くはないが利益は出ている。日本でやっていることの延長でできたことが良かった。日本でできていないことをできるはずがなく、日本でやっていることをいかにアレンジするかが大事」と話す。

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