ポストコロナ社会どう生きるか

人と人との距離は再び縮まるか

金井啓子の伴走で伴奏

 私が勤務する大学の研究室には、私の椅子のほかに16脚の椅子がある。同じ校舎に四十余りある他の研究室も同様である。これは、13年前に学部が創設された際に、演習や講読などの少人数クラスは全て研究室で行うことになったからだった。以来、研究室で十数人の学生が肩寄せ合って話し合う姿が日常の風景となった。

 その当たり前の風景が消えてまもなく3年になろうとしている。狭い研究室に多くの人がいる状態はコロナ感染防止の観点から望ましくないためで、私も定員約50人の教室や時には100人ぐらいの教室で、十数人程度のゼミ生を相手に授業を行うようになった。感染防止のために必要であることは十分にわかる。それでも、少人数クラスならではの親密さを生み出すことの難しさを感じながらの授業運営が続いた。

 だが、今年4月の新年度からは「少人数クラスはコロナ前のように研究室で行う」という方針が学部で決まった。

 大学ではいま、本年度後期の定期試験を行っており学期末を迎えている。先日行われた4年ゼミの最終授業では、「最後ぐらいは」ということで、今学期使っていた約50人定員の教室ではなく研究室に集まることにした。研究室にゼミ生11人が入ることに対して、当日の開始前は正直なところ期待と不安が入り交じった気持ちを私は抱いていた。狭い場所に多くの人が入る環境に慣れていないからだ。

 だが、物珍しそうに研究室の中を眺める4年生たちを見ていたら切ない気持ちに襲われた。卒業したゼミ生が研究室に遊びに来ると異口同音に「なつかしい」と声をあげるここは、ほんの3年前まではゼミ生たちの「居場所」だったからだ。その日までほとんど入ったことがなかった研究室で、隣り合った椅子に座りながら笑顔を見せつつ話に興じる4年生たちを見ていると、授業前に私が抱えていた不安はいつの間にか薄らいでいった。

 政府は新型コロナの感染症法上の分類を5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げる方針を固めた、と報道されている。マスクの着用は、屋内外を問わず、原則として個人の判断に委ねる方針だという。

 大規模な疫病が流行した後の時代を生きるのは、われわれにとって初めての経験である。何が「正解」なのか分からないまま、期待と不安の日々が続いていく。

 (近畿大学総合社会学部教授)

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