旅館の象徴「浴衣」

吉武英行 五感の旅

 旅館で浴衣。何の違和感もない。当たり前の組み合わせだと思っていたが、友人から「旅館に行くのは好きなんだが、浴衣が苦手で着られない」と告白されたときは驚いた。

 浴衣を着たときの感覚がどうしても我慢できないという。部屋にいる時と寝るときはTシャツに短パン、食堂や大浴場に行くときに短パンが場違いなら、長いものに履き替えていくのだという。「浴衣にすれば着替えなくていいし、リラックスできるのでは」と言っても、「絶対ダメ。あの感じがダメだし、寝る時にぐちゃぐちゃになるのも気持ちが悪い」と。なるほど。そういう感覚の人もいるのか。筆者も浴衣で一晩寝て、朝起きて浴衣がちゃんとなっていたことがない。

 真相を突き止めるために、先日旅館に泊まったときに自前のTシャツに短パンを持参して試してみた。旅館に泊まるのには、かなり無粋なふるまいではあるが。こうして浴衣レスで一晩過ごしてみた結論は「浴衣じゃない方が楽だ」という衝撃的なものだった。

 旅館に泊まっている雰囲気を壊してしまうという問題はあったが、リラックスできるという点では浴衣でない方に軍配は上がった(あくまでも個人の見解)。筆者は旅館の浴衣自体が苦手というわけではないし、風呂上がりにはいいが、寝間着としてしては好まないという意見だ。

 例えば知り合いで必ず寝間着を持っていくという人もいる。そういう人たちは自前の部屋着や寝間着を持って行っているので、旅館に何かをしてほしいと言うことはないと思う。自分の歯ブラシを持っていくようなものかもしれない。

 浴衣の魅力は理解しているが、それでも「浴衣が苦手な人」がいるということは、旅館側にもぜひ知っておいてほしい。

 (ホテル・旅館プロデューサー)

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