「咳をしても一人」「こんなよい月を一人で見て寝る」-。俳句の中で、五・七・五の17音や季語に縛られず、感じたままを自由に表現する自由律俳句。冒頭の句は鳥取市出身の俳人、尾崎放哉(1885~1926年)が残した名作だ。何か独特な味があって面白い。これは素人でも取り組めるものなのか。放哉の命日である7日に故人をしのび、記者が挑戦してみた。
まずは放哉の顕彰に取り組む「放哉の会」の会員で、15年ほど放哉を研究し自由律俳句への造詣が深い岡村洋次さん(74)=鳥取市=にいろいろと教わった。
-自由律俳句とは。
明治時代から放哉の師、荻原井泉水が中心となって広がった。最近では、芸人や作家として活躍する又吉直樹さんが句集を出しており、多くの人に親しまれている。
-面白さは。
文字数にとらわれず、自分の言いたい言葉でそのまま表現できる。放哉の「咳をしても一人」は9音しかないが、部屋に一人いる様子や孤独感などの背景がよく伝わってくる。
-作り方のこつは。
ルールがないが、リズム感や韻が必要で、初心者には難しい面もある。まずは先人の作品をよく味わって勉強することが大切。
なるほど。岡村さんの話を聞いた後、日常生活での気づきをじっくりと思い出す。表現に頭を悩ませながら、見よう見まねで次の3句を作った。
「犬と猫だけ待つ玄関」
・・・夜遅く帰宅し、家族はもう寝ている時のさみしさから。
「同じ並盛り隣のが多い」
・・・食堂で、ご飯の並盛の量が隣の客の方が多く感じ、損をした気分から。
「先に出たら負けな気がする」
.・・・よく行くサウナで赤の他人と2人きりの時に生まれる謎の対抗心から。
早速、岡村さんに見てもらうと「まあまあ…かな。自分の気持ちを読み手に訴える言葉の力が弱いので、思いを素直に伝えることから始めてほしい。また『だけ』や『気がする』という言葉を使わずに表現すると美しい」と講評いただいた。
実際に作ってみると、自由律俳句はルールがないことで簡単に見えるが実は難しく、奥深さを感じた。さまざまな作品から学び、日常の記録としてまた句作に取り組んでみたい。皆さんもぜひ挑戦してみては。(黒阪友哉)