大阪湾に浮かぶ大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)。大阪府と大阪市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致先だが、特有の地盤がIRにとって大きな懸念材料となり、昨秋とされていた区域整備計画の認可がいまだに下りていない。恒常的に地盤沈下が続き、地震時には液状化が予測される夢洲で、IRの安全性は確保できるのか。
「IR用地の地盤沈下や液状化等に関する安全確保について、多岐にわたる観点から慎重かつ十分な審査を行っている」。昨年11月の国会で、日本維新の会の馬場伸幸代表の質問に、斉藤鉄夫国土交通相が答えた。IRの認可が遅れている主因が夢洲の地盤問題であることが明らかになった。
大阪湾の埋め立て地である夢洲には特有の土地課題があり、大阪市はすでに土壌汚染、液状化、地中埋設物の対策などで約790億円の支出を決めているが、そこには地盤沈下対策費は含まれていない。
大阪市とIR事業者との協議では「夢洲での大規模開発は、支持基盤(洪積層)が長期に沈下する極めてまれな地盤条件下での施設建設となるため、地盤沈下対策だけで複雑かつ高難易度の技術検討や建物の安全確保に多額の対応費用の必要性が生じている。さらに液状化が生じた場合の建物への影響は技術的にも未知であり、地盤沈下・液状化の複合影響を建物構造側で抑止・抑制する方法(杭(くい)補強等)だけでは、確実な安全性担保はできない」とし、大阪市に敷地全体の地盤改良を求めている。
区域整備計画の認可が下りれば、大阪市とIR事業者は35年間の土地の借地権設定の契約を結ぶことになる。昨年7月、「高層建築物を想定していない軟弱地盤に巨大な施設を計画し、大阪市が底なしの財政負担をするのは違法」として、市民ら5人が契約の差し止めなどを求めて提訴した。大阪市が支払いの上限を「債務負担行為の限度額の範囲内」とする点には「限度額を超えた場合の免責に言及していない」と反論。弁護団は「夢洲へのIR施設の建設は、大阪湾を札束で埋め立てようとするくらい無謀な試みであることを市民には知ってもらいたい」と強調する。
南海トラフ巨大地震への対策も必要だ。政府の地震調査委員会は同地震の発生確率を30年以内に70~80%と算出しており、大阪IRの事業期間と重なる。巨大地震の発生が想定される中で、軟弱地盤に高層建築物を建てて被災した場合、誰が責任を取るのか。誘致を進める大阪府、大阪市にも、認可を検討している国にも覚悟が求められる。