地域に密着した作品群 奈良で池本喜巳さん展 

 鳥取県の写真家、池本喜巳さん(78)の作品展「記憶のとびら」が奈良市高畑町の入江泰吉記念奈良市写真美術館で開かれている。時代の流れで姿を消した個人商店の写真を中心とする約120点を展示。多くの来館者が往事の面影を鮮明に記録した一枚一枚に見入っている。6月25日まで。

 池本さんは同県出身の写真家、故植田正治さんの助手を務め、1970年代からライフワークとして山陰地方の個人商店を記録。「近世店屋考」と題した。

 撮影を快諾しない店も多かったが、不思議な魅力に引かれて何度も足を運んだ結果、熱意が伝わり、ようやくシャッターを切ることができたという。

 当初から大伸ばしを想定し「8×10(エイトバイテン)」と呼ばれる、A4サイズに近い大判フィルムのカメラで撮影。店主の人柄や、店に漂う当時の空気感まで鮮明に写し取った。

 館内には、立ち飲み客でにぎわう酒店をはじめ、金物、練炭、鍛冶、おけ製造といった地域に密着したなりわいを写した作品が数多く並び、幅広い年齢層が懐かしさや新鮮さを感じながらじっくり鑑賞している。

 被写体となった店の大半はすでに廃業しており、池本さんは「当時は消えゆく店を撮影することに無我夢中だったが、時間の経過ととともに記録としての価値が生まれた」と述懐。「写真家を目指す人は、時間をかけて自分のテーマを追求してほしい」と後進にエールを送った。

 午前9時半~午後5時(入館は30分前)。月曜休館。

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