大阪府市が政府に申請していたカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画が認定された14日、四十年来の知人からメールが届いた。
そこには、彼女の息子がギャンブル依存症で回復施設に入っているとあった。彼女も、特定非営利活動法人全国ギャンブル依存症家族の会で支援を受け啓発活動にも関わっているという。本コラムの読者でもある知人は、政府の認可をきっかけにギャンブル依存症について私に発信してほしいと考えたそうだ。
数日後に私はオンライン通話で彼女との「再会」を果たした。彼女の話は、本コラムの字数制限が恨めしくなるほど貴重な話の連続だった。
同居していた息子の様子がおかしいと気づいたのは、息子の勤務先からの電話で、息子が備品を持ち出したと知った時だったこと。その備品を質屋に持ち込んだと判明したこと。会社への損害を親である彼女と夫が肩代わりしたこと。息子は「買い物の借金返済のため」にお金が必要だと主張し、ギャンブルが原因とはなかなか明かさなかったこと。息子が家庭内の物を持ち出してお金を工面したこと。息子の状況が明らかになるにつれ、親である自分の育て方が原因かと責め、食べられず眠れなくなったこと。全国ギャンブル依存症家族の会や別の自助グループでの学びを通じて、ギャンブル依存症の人を家族だけで助けられないことを理解し、本人にすべてをまかせるために息子に1人暮らしをさせたこと。息子は専門家からの説得を受けて依存症専門の病院へ入ったこと。3カ月の入院を経て今は回復施設にいること。
全国ギャンブル依存症家族の会および公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会は、政府の認可を受けて共同声明を発表し、ギャンブル依存症問題の若年化や犯罪化が進み問題が深刻化しているにもかかわらず政府の依存症対策予算は「もともと少ない予算がさらに削られて」おり、「このような現状を鑑みカジノの認定は時期尚早であり、ギャンブル等依存症対策の拡充が先であると強く訴え」たいとした。
「ギャンブル依存症になってしまうと、家族の愛情では回復させることはできない。正しい知識を持つことが必要」と語った知人は、大阪での開設は「ギャンブルへのハードルが下がる」との危惧も口にした。
知人の話を聞けば聞くほど、このまま開設に向けて突っ走っていいとは私は思えなくなっている。
(近畿大学総合社会学部教授)