日ごろ耳にする機会が多いクラシック音楽の一つがモーリス・ラヴェルの「ボレロ」だろう。スネアドラムのリズムが曲をリードし、二つの旋律は木管から金管、弦と楽器を代えながら、打楽器とともに厚みを増していく。高揚感が癖になり、何度でも聞きたくなる。
この曲が生まれるまでの苦闘、喝采の後に訪れた苦悩を描く映画「ボレロ 永遠の旋律」(アンヌ・フォンテーヌ監督)を見てまた聴き直すと、さらに妖しく、味わい深い。
若き日の賞での落選、第1次世界大戦従軍、母親への追慕、プラトニックな愛など、作曲家の人生に影響を与えたエピソードを織り込みながら、「ボレロ」で名声を手にした後、晩年に向かって内面に変調を来すさまを、映画は丹念に描いていく。
今にも割れてしまいそうな作曲家の心は、薄く透き通ったガラスのようだ。主演のラファエル・ペルソナは緊張感あるたたずまいで不安と自信がないまぜになった人物を表現している。
人生に関わる女性たちも魅力的だ。終始寄り添うミシア(ドリヤ・ティリエ)は知的で寂しげな女性だが、ぬくもりのある視線が忘れ難い。ラヴェルに作曲を依頼し、「ボレロ」の初演(1928年)で踊るダンサーのイダ・ルビ...