コラム

[潮騒] 8月24日(土)

2019年8月24日

 東京パラリンピックまであと1年。大会に挑む選手の素顔を伝え、共生社会の機運をつくるニュースが増えた。そんな折、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の思いがつづられた一冊を図書館で見つけた◆タイトルは『教育の原点 ALS患者が短歌をとおして語りかける人生で一番大切なこと』。51歳で発症した元高校教員の内山幹敏さんは、重度障害者の私でも比較的負担なく表現できる、と三十一文字(みそひともじ)の短歌に挑戦したそうだ◆「人生は魂育む学び場だどんな運命(さだめ)も錬磨の機会(チャンス)」と信念を歌に込め、詠み続けた作品は2500首を超す。「いい夢を見ながらいっそ覚めないでそのまま死ねばどんなにいいか」と生死の葛藤も歌にしていた◆五、七、五、七、七の定型に当てはめることで心が整理される、とは大阪の歌人高田ほのかさんが説く短歌の魅力である。たとえゴールの見えない暗闇を歩いているとしても、歌にすることで心は救われる。心の中を知ってほしいから、人は歌を詠むのかもしれない◆内山さんは昨年7月に北海道の自宅と東京の早稲田大をビデオ通話でつないだリモート講演会で思いを語り、その後急逝した。「運命と強い意志とが感応し真の使命に目覚めて生きる」。わずかに動く指に託した一首が、胸に迫る。(深)


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