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【参院選コラム】0・3票や0・5票で民主主義と言えるか いつになったら「1人1票」(下)

2022年6月21日 14:26

 米連邦最高裁が連邦と州議会の選挙区に関する問題を司法審査の対象と宣言したベイカー事件の米誌記事がきっかけで、1962年から選挙区間の「1票の格差」を理由に国政選挙の無効を求める訴訟を始めた弁護士の越山康さん。2009年に76歳で亡くなるまでに、原告や代理人として20件以上の裁判に関わり、生前の共同通信の取材には「参政権こそ民主主義の基礎」と力説していた。1票の格差訴訟は、薫陶を受けた後輩弁護士の山口邦明さんたちが引き継ぎ、昨年の衆院選を巡っても提訴している。

 判決のため、最高裁へ入る越山康さんら(最前列中央)=1985年7月17日、東京・隼町
 前回の参院選投開票日翌日、選挙無効を求めて東京高裁へ提訴に向かう弁護士ら。前列左から久保利英明さん、升永英俊さん、伊藤真さん=2019年7月2日、東京・霞ケ関
 
 
 米連邦最高裁の法廷。左側のいすに判事9人が座る=2000年11月
 竹田昌弘(たけだ・まさひろ)共同通信編集委員兼論説委員(憲法・司法・事件)  1961年富山県生まれ。毎日新聞から共同通信の記者に転じ、宇都宮支局や社会部などに勤務。大阪社会部次長、社会部次長、司法キャップなどを経て現職。共同通信社の「事件報道のガイドライン」や事業継続計画(BCP)の策定も担当した。著書に「知る、考える裁判員制度」、編著に「憲法ルネサンス」など。

 一方、LED発明対価訴訟など多くの知的財産訴訟を手がけてきた弁護士の升永英俊さんや、株主総会対策で名をはせた企業弁護士の久保利英明さん、司法試験受験指導校「伊藤塾」塾長の伊藤真さんらが「一人一票実現国民会議」を結成し、09年の衆院選から新たに提訴を始めた。

 ▽競い合う高裁裁判官

 「日本国憲法が求める民主主義は『一人一票』の選挙権を持つ有権者の多数決によって、国会が構成され、政府が運営されることです。しかし、わが国の現状はそうなっていません」。国民会議の設立趣意書では、こう指摘するとともに、投票価値の不平等を容認する最高裁判事は国民審査で「×」を付ける運動も呼びかけている。

 選挙無効訴訟の一審は高裁から始まる。提訴先が東京高裁などに限られていた越山さんや山口さんたちと違い、升永さんたちは全国の高裁本庁・支部に裁判を起こし、各高裁の裁判官たちは判決の内容を競い合うようになった。

 最高裁は1976年の衆院選違憲判決後、2009年以降は二つのグループから提訴を受け、どのような判断を示してきたのか。衆院選、参院選の順にまとめてみる。

 まず衆院選は、最大格差が4・40倍に上った1983年の選挙についても、最高裁は「違憲」と認定した。国会が8増7減の定数是正を行い、その後3回の選挙で最高裁は2・92倍と2・82倍を合憲、3・18倍は違憲状態としたことから、この頃は3倍が合憲・違憲のボーダーラインと言われていた。

 非自民の細川政権による政治改革で、96年の衆院選から小選挙区比例代表並立制に変わると、小選挙区の最大格差は2・5倍を超えなくなり、合憲判決が3回続く。ところが自民、公明両党から民主党中心へ政権が交代した2009年と自民、公明両党が政権を奪還した12年、安倍政権による最初の解散に伴う14年の3回は、最大格差が2・30倍、2・43倍、2・13倍と3倍を下回っていたが、最高裁はいずれも違憲状態と宣言した。

 09年の衆院選に対する11年3月の判決では、小選挙区の定数を決める際、各都道府県にあらかじめ1人を配分する「1人別枠方式」は「投票価値の平等という憲法の要求とは相いれない」「格差を生じさせる主要な原因」として廃止を求めた。1人別枠方式は小選挙区制で定数減となる人口の少ない県に配慮した制度だったが、「もはや合理性は失われている」と指摘した。

 ▽変わるボーダーライン

 その上で最高裁は、衆院議員選挙区画定審議会設置法(区画審設置法)は格差を2倍未満にすると定めているのだから「この趣旨に沿って投票価値の平等の要請にかなう立法的措置が必要」として、今後は2倍を合憲・違憲のボーダーラインとすることを事実上明らかにした。升永さんたちが提訴に加わった9件の訴訟で、内容を競った高裁判決が違憲4件、違憲状態3件、合憲2件に分かれたことや、升永さんたちは「格差2倍」ではなく、不合理が分かるように「1人0・5票」と訴えたことなどがボーダーラインの変更に影響した可能性がある。

 国会は1人別枠方式を定めた区画審設置法の条項を削除したものの、定数と区割りの是正が十分ではなく、12年と14年の選挙も2倍を超え、違憲状態と判断された。最大格差2・43倍に広がった12年の選挙の一審判決では、広島高裁が「違憲」と判断した上、一定の猶予期間付きで提訴対象の広島1区と2区の選挙を初めて無効とした。

 17年の選挙は最大格差が1・98倍に縮まり、定数配分に都道府県の人口比が反映しやすい「アダムズ方式」の導入が決まったこともあり、最高裁は「違憲状態は解消された」として合憲判断に。昨年の選挙は最大格差が2・08倍にアップし、二つのグループが提訴した17件のうち7件は高裁が違憲状態と判断している。年内にも最高裁が判決を言い渡す見通し。

 ▽格差大きい参院選

 一方、選挙区が都道府県単位の参院選は、投票価値の最大格差が1971年以降、5倍を超えたが、最高裁は国会の立法裁量権などを理由に合憲と判断した。6・59倍に達した92年の選挙は、さすがに違憲状態と警告し、参院選は6倍が合憲・違憲のボーダーラインと受け止められていた。定数是正で95?2007年の5回の選挙は5倍前後で推移し、合憲の判決が続いた。

 しかし、最高裁は5・00倍の10年の選挙と、4増4減の定数是正で4・77倍となった13年の選挙をともに違憲状態と判断する。ボーダーラインを変えたのは、(1)01?07年の3回に対する判決で、都道府県単位の選挙制度見直しを繰り返し求めたが、国会は見直さなかった(2)参院選の結果次第では「ねじれ国会」が形成され、その役割は増大している(3)10年の選挙から升永さんたちが加わり、17件に上った高裁判決のうち違憲と違憲状態が計12件を占めた―などの事情が影響したとみられる。

 合区を含む10増10減の定数是正で最大格差が3・08倍にダウンした16年と、選挙区2増で3・00倍となった19年の選挙は合憲判決で、合憲・違憲のボーダーラインは3倍前後に下がったようだ。

 都道府県単位の選挙制度見直しも定数是正もなく迎える今回の参院選は、最大格差が3倍のままか、もっと広がっているかもしれない。そもそも最高裁が設けるボーダーラインは、人口の最も少ない選挙区の投票価値が1票なのに対し、衆院選の格差2倍は「0・5票」、参院選の格差3倍は「0・3票」の有権者がいてもしょうがないという、およそ「憲法の番人」とも思えない乱暴な考え方だ。「1人1票」を追求する米連邦最高裁は連邦下院の選挙区間で1%に満たない、三千数百人の差を違憲としたこともあり、憲法の番人とはかくあるべきだと示している。

 日本国憲法43条は、両院を「全国民を代表する選挙された議員」で組織すると定めているので、国会議員は都道府県や選挙区の代表ではない。衆院も参院も人口の少ない地域に一定数の議員を維持しつつ「1人1票」の選挙となるまで議員を増やし、1人当たりの歳費や調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)などの経費を減らしたらどうだろうか。ベイカー事件に続く投票価値を巡る訴訟(レイノルズ事件)の判決で、米連邦最高裁は次のように言っている。

 「立法者は人民を代表するのであって、木を代表するのでも土地を代表するのでもない。立法者は有権者により選ばれるのであって、畑や街や経済的利益によって選ばれるのではない」。日本の立法者(国会議員)も全く同じだ。(共同通信編集委員兼論説委員=竹田昌弘、各判決書、別冊ジュリスト「アメリカ法判例百選」などを参照した)



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