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「唇の感動」味わって がん経験者考案食器が人気

2021年1月29日

 がん経験者がデザインしたスプーン、フォークが、人気を博している。猫舌堂(大阪市北区)の社長を務める柴田敦巨さんが手掛ける「唇が感動する」シリーズは、形状や大きさなどを工夫。口を開きにくい患者だけでなく、お年寄りや口の小さな子どもらにとユーザーが広がっている。同じ物を使うことで、垣根がなくなる“心のバリアフリー”も願う。

口腔(こうくう)内に支障がある人向けのスプーン、フォークを手に「唇から感動を」と話す猫舌堂の柴田さん(提供)

 柴田さんは6年前、耳下腺がんを発症し、手術を受けた経験がある。治療中、従来のスプーンではうまく食事がとれず、さまざまな市販品を試してみたが「どこかフィットしない」と不満があったという。

 当時、関西電力病院で看護師をしていた柴田さんは2019年、関西電力の社内ベンチャー募集に応募。口に関して問題を抱えている患者用のカトラリー(食卓用刃物)を製造、販売するアイデアを提案して認められた。

 すぐに会社を設立。知り合いなどにリサーチしてデザインをまとめると、新潟県燕市のメーカーの協力を仰いで、20年2月に販売を開始した。

 「当初の目的は、がん患者や経験者が楽しく食事ができることだった」と柴田さん。スプーンもフォークも頭の部分を平らにして幅を狭くすることで、スムーズに出し入れできるようにした。小さく口当たりの良さも好評を博した。

 インターネットや同病院、愛知県のがん専門病院の売店などで販売を開始。昨年11月の近鉄百貨店(同市阿倍野区)の催事に参加した際には、1日に100本を売り上げた。

 口コミで徐々にユーザーの輪が広がっていく中、がん患者とは別の層からの反応も聞こえてきた。

 「自分用に買ったが、使い勝手が良くておじいちゃん用に買い足したい」「小さくて一口の量がちょうどいい。味が分かるし、早食いがなくなった」など、一般の人からの声が届いた。柴田さんは「普通の人にも使ってもらえるよう、デザインしたのでうれしい」と目を細める。

 かつて外食をした際、自身もうまく食べることができず、周囲の目を気にしたこともあった。「同じスプーンを使うことで、がんの経験者とそうでない人の垣根がなくなれば」と思いを寄せる。

 現在はフォーク、スプーンの2種類だが、今後も点数を増やしていく予定だ。将来的には売り上げの一部を、がん治療に役立てたいとも考えている。シリーズ名の「唇が感動する」は、ユーザーの声。これからも口に感動を届けていく。


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