金井啓子の現代進行形

欧州で福島の今と葛藤を語る

2019年10月31日

核医学会がスペインで開催

 「科学者の事実や論理ではなく『物語』を語ってくれたから情景が思い浮かんだ」−。これは、今月スペインで行われたヨーロッパ核医学会の年次大会で、私の講演後に聴衆から聞いた言葉である。同学会と日本核医学会の共同シンポジウムでの私の演題は「福島への支援〜原発事故による地域への影響」だった。

 最終日である上に、カタルーニャ関連のデモが激化しつつある時で帰りの飛行機が気になる人が多い状態。それでも予想を超す人数が来場したのは、福島への関心が高いためなのだろう。

 日本核医学会から「原発事故による社会への影響について話してほしい」との依頼を受けて以来、この大きなテーマをどう扱えばよいか迷った。だが、勤務先の近畿大学が「オール近大」というチームを編成して支援し、町の一部が6年間にわたり「計画的避難区域」となった川俣町について話すしかないという考えに落ち着いた。数年前にも訪れた川俣町を今年になって何度か訪れ、すべての元となった福島第1原発も視察した。

 その上で私がスペインで話したのは、川俣町で見聞きした話の数々だった。事故から1カ月もたって突然避難するように言われたが、避難までにさらに1カ月もの猶予が与えられ、そのいいかげんさに憤ったこと。帰還したのは高齢者が多く若い人が少なかったのは、放射線への不安よりも、6年間も過ごした「一時的な避難先」で落ち着いてしまったからだったこと。帰還後に改装され立派な設備を持つ小中学校が閉校の危機にあること。若者の助けを得ずに田舎に住むことに高齢者は不安を抱えていること。避難せざるを得なかったために渡された賠償金が、避難せずに済んだ人よりも多かったために、嫉妬や敵意が感じられてつらかったこと。目に見えず全く未知のこわいものだった放射線について、「オール近大」の研究者から学べたのは役立ったこと。福島で生産される食べ物への懸念が強まったため、「オール近大」の研究者からのアドバイスで、口にしないもの、土で育てないものとして、ポリエステル媒地で育てたアンスリウムの出荷が始まったこと。

 私は「日本全体で放射線について正しい知識を持ち、福島のすべてに対する偏見をなくし、福島の人々に対してしっかりと物心両面の支援を続けることが必要であると、私は考えています。福島の子どもが成長し、進学、就職、結婚、出産、子育てといった人生の節目を迎える中で、長期間のケアが必要となるでしょう」と講演を締めくくった。

 講演後、冒頭の言葉以外にもいくつかの言葉を頂いた。中でも「放射線について語る科学者の言葉は、どうすれば放射線を恐れる人々に届くのか」という核医学の専門家からの言葉が強く胸に刺さった。「その間をつなぐのがあなたの役目かもしれない」と続けた彼の言葉を、今後の私への宿題として受け止めた。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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