金井啓子の現代進行形

「桜を見る会」で傷ついた誇り

2019年11月21日

米国でも士気の低下が進むのか

 「桜を見る会」に関しては本コラムで書く予定はなかった。多くの人が既に書いており、私に書けることはないと思ったからだ。

 だが、約20年前にこの会に夫婦で参加した知人からメールで話を聞いて気が変わった。教育関係の功労者として招かれた知人は、今回のニュースを聞いて「残念」だと書いていた。80歳前後となったその人の人生の中で、非常に誇り高く思い続けてきた出来事だったのだと率直な気持ちを吐露してくれた。それにケチがついてしまったことに対し、悔しさがにじむ文面だった。

 私自身も昨年までは、あの会のニュースを見るたびに、政府が税金を使って開催するあの催しに呼ばれているあの人たちは、国に対してどんな貢献をしたのだろうかと、半ば仰ぎ見るような気持ちでいたのだ。過去に出席した誇りを傷つけられた人たちが、今どれだけ多くいることだろうか。

 自分の仕事への誇りを傷つけられることに対する思いを深めていたころ、私がいる米国でも数日前に、この人の誇りはどれだけ傷つけられたのだろうかとおもんぱかる瞬間があった。

 それは、トランプ大統領のウクライナ疑惑を巡る弾劾調査で、ヨバノビッチ前駐ウクライナ大使が公聴会で証言した時のことだった。前大使は、大統領顧問弁護士を中心とした組織的な中傷が展開されたあげく解任されたと主張している。

 「33年間にわたり国務省の官僚として、4回の共和党政権と2回の民主党政権を通じて米国民に仕えてきたことを誇りに思っています」と語った前大使。また、「現職の大統領が決定した外交政策を遂行し、常にわが国の国家安全保障を強化し、わが国の国益を推進するために、厳密に無党派を基本として仕えること」が義務であったとも強調した。これはあくまでも推測だが、前大使にもおそらく支持政党はあり、過去の各大統領に対する好みもあっただろう。だが、それを超えて仕えてきたにもかかわらず不当に解任されたのだとしたら、前大使の怒りもわからなくはない。

 今回の前大使の証言は、ウクライナ疑惑におけるトランプ大統領の関わりも含め、重要な内容を含んでいた。だが、私にとっては、前大使の長年の誇りが大きく傷つけられたことが、ひいては国務省官僚全体の誇りや士気を損なうのではないかという点で印象に残った。

 誇りというあいまいなものだけで、全ての物事が進むというほど甘えたことを言うつもりはない。また、「誇りがメシを食わしてくれるわけではないだろう」と言われてしまえば、その通りだ。だが、誇りを傷つけられた人々が集う国家がどうなっていくのか。おそらくは腐敗が始まる、それだけは確かではないだろうか。私の祖国である日本、そして非常に緊密な関係を築いている米国。その二つの国で、形は違えどよく似た出来事が進行しているさまを目撃し、静かに震撼(しんかん)しているところだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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