金井啓子の現代進行形

坂だらけでも自転車が多い街

2019年12月26日

人と自然、社会に優しい環境

 サンフランシスコは坂が多いことで有名だ。私の自宅は丁字路にあり、玄関を出て右へ行けば上り坂、左と前は下り坂である。そんな街に住んで驚いたのが、自転車に乗る人が多いことだった。

 こんなに坂だらけでも自転車に乗るのは、クルマを運転しても駐車場所を見つけるのが至難の業だったり、公共交通機関が遅れがちだからという理由を耳にする。その自転車も、頑丈そうで荷物も多く積める上に、色や形がおしゃれな電動式が出回っている。実際に、私がお世話になっているサンフランシスコ州立大学の同僚のひとりも、華やかなオレンジ色の電動自転車に乗って坂を上り下りしつつ通勤している。

 そんな事情に加えて、公共交通機関と自転車の相性の良さも貢献しているのではないかと、私は思う。サンフランシスコ市内から郊外をつなぐBARTという電車の車内には、自転車を折りたたまずに置けるスペースがある上に、駅の改札の中にまで自転車置き場がある。これには驚いたが、路上に置くよりは安心だからだろう。また、市内を走るバスは、車体の前に自転車をくくりつけて運んでくれるのだ。いったん自転車に乗ったらずっと自転車ということではなく、必要に応じて電車やバスと自由に組み合わせられる。これほど柔軟な環境が整っていると、自転車も随分と利用しやすい。

 市内では、自転車専用のレーンもよく見かける。そして、ある専用レーンの横で目にしたのが「自転車メーター」とでも呼びたいような機械だった。自転車が通り過ぎるたびに「きょうここを通った自転車は何台目か」をカウントし、なおかつ年間の累積台数も表示している。数字を示すスクリーンの下には「自転車に乗ってくれてありがとう」とも書いてあった。クルマが多くなりすぎることによって生じる渋滞や環境汚染を、少しでも緩和しようという取り組みなのだろう。

 自転車で通勤している同僚から私に自転車を貸そうかと言われたのだが、電動ではなくギアすらないと言われて返事を保留したままとなってしまっている。実を言うと、約15年前に大阪で友人が自転車に乗っていて交通事故に遭って亡くなった。それ以来、クルマがほとんどいない田舎道でしか自転車に乗れない状態が続いている。でも、サンフランシスコの自宅と大学は坂があっても直線距離ではかなり近いし、電車やバスとうまく組み合わせられるかもしれない。下りの坂道を走るのは眺めもよくて気持ちよさそうだし、行動範囲も広がりそうで悩ましい。

 数カ月後に戻る大阪では、自転車は多いけれどここまでの環境は整っていないし、お世辞にもマナーがいいとは言えない。大阪の道路事情やマナーの悪さにげんなりする前に、今のうちに快適な自転車ライフを楽しんでおいたほうがいいかもしれない。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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