金井啓子の現代進行形

映像公開で震災の記憶を新たに

2020年1月16日

朝日放送がネットにアーカイブ 

 サンフランシスコを知ろうとすると、1906年と1989年の大地震の話を目にすることが多い。被害を語り継ぎ、“次”に備える。これは日本も同じだ。阪神淡路大震災から25年、大きな動きがあった。朝日放送が、震災の取材映像の一部である約38時間分をウェブサイトで一般公開したのである。

 今回の公開を提案した報道部記者の木戸崇之さんは「25年前にリアルに起こった震災の映像をライブラリーに押し込めたままにしておくことは、古文書に書かれていた平安時代の大津波の教訓を生かせなかった東日本大震災の二の舞になると思った」と提案の理由を語る。

 木戸さんは私が記者だった頃からの古い仕事仲間であり、よりよい災害報道を求めて深く広く勉強を続ける彼の姿を見てきた。

 ただ、公開は簡単ではなかった。「最大の問題は、被災者の『肖像権』にどう配慮するかだった」そうだ。だが、有識者の研究会を行った結果、「阪神淡路大震災が『歴史的な大事件』であるとすれば、公開の社会的意義が大きい上に、発生から25年が経過して、被災者の心理的にも公開へのハードルは下がってきていると考えることもできる、という考え方になることがわかった」という。

 法律の専門家に相談し、一部の被取材者に連絡を取った上で公開にこぎつけた。連絡を取ろうとした被取材者の中には既に死去した人もいたが、存命の本人や関係者に公開の意義や方法を説明すると「みなさん、公開に賛成してくださり、拒否されることはなかった」という。ただし、全ての被取材者の了解を得ることは現実的に難しいため、公開後に問い合わせがあったら「趣旨を説明したうえで意向に沿って配慮する方針」だ。

 実は、映像公開に向けた過程で、他大学の学生に混じり近畿大学の学生もお手伝いをした。昨年11月のワークショップで、自分たちが経験していない震災の映像を視聴し、どんな映像に驚いたか、映像で伝えられる教訓は何か、「伝える価値がある」と評価した映像はどのような形で視聴できるか、といった点について意見を示したのである。

 国際学部の川口愛香さんは、ワークショップ参加後に私に「阪神淡路大震災がどれほどすさまじいものだったのかを初めて知る機会になった。私が生まれる前の出来事だが、映像には私たちが知らない震災の本当の様子が残っており、この世のものではないような悲惨さだと思った」と語った。また、総合社会学部の玉置萌恵さんは「阪神淡路大震災は誰でも知っている。でも、犠牲になった人たちの物語は知らない。その物語の断片を見せられるのがドキュメンタリーであり、ジャーナリズムなんだと思った」と述べた。

 “次”の震災がいつ来るのか考えると恐ろしい。だが、今回の映像公開が大きな力を貸してくれることを信じながら、38時間分を視聴したい。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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