金井啓子の現代進行形

米国知らない世代が増える今後

2020年1月23日

渡米を敬遠する日本の大学生

 私はいま「外国人」として米国に滞在している。それは、私だけが周りとは違う人間として目立つことなのだろうと思っていた。だが、米国籍を持つ「アメリカ人」という大きな塊の中に無数の「個」が詰まっているのだと、この数カ月に何度も実感した。そして、パスポートでも見せない限り、私もその塊の中の一人にしか見えないのだ。

 バスの車内で、中国語で話しながら英語のアルファベットの書き方の教材を見ていた高齢の女性。ユダヤ教の祝日に講義の担当を代わってもらって休みをとる教員。スペイン語で野菜の名前が書かれている食料品店。字を書いたことがないイエメン移民の成人女性に、鉛筆の持ち方から始めて英語を教えるボランティアをした女性。男性同士のカップルに紹介された時に、なんら特別扱いもなく使われている「彼の夫」という言葉。

 ただし、米国内には、白人ばかりの場所、保守的な人が多い地域もあり、それもまたこの国の「多様性」の一面だ。トランプ大統領への不満を口にする人にばかり私は出会っているが、なぜ当選できたのだろうとある人に尋ねると「そりゃサンフランシスコだからでしょ。同じカリフォルニア州でもトランプ支持者が固まっている地域があるし、全米としては支持者ばかりの州も多いのだから」と言われた。

 そんな米国が、日本にとって外交面で最も大きな影響を受ける国であることは間違いない。だが、それだけ緊密な関係である米国への日本人留学生の数が激減している。1997年に約4万7千人いた日本人留学生は2018年には約1万8千人となった。私がお世話になっているサンフランシスコ州立大学でも、留学生の国別ランキングを見ると、長年の首位の座を09年に中国に譲り、15年以降はインドに2位の座を奪われていた。

 ジョセフ・M・ヤング駐日米臨時代理大使は朝日新聞に先月寄稿し、両国関係への影響を危惧していた。「現在の日米の力強い同盟関係の背景には、日本の指導者の多くが米国留学を経験していることが挙げられる。(中略)仮に日本人留学生の減少が、次世代のリーダーの日米関係の理解度や重要視する度合いに影響すれば、残念だ」と書いた。

 米国の学費高騰、「銃社会」への不安、日本の近隣諸国で英語研修が受けやすくなったことなど、理由はさまざまだろう。私が勤務する近畿大学の学生も、韓国・中国などをはじめとする国への渡航経験はあっても、米国本土に行ったことがない人は多い。なじみのある国が米国一辺倒ではなく多様化することは悪くはない。だが、「行ったことがないけれど、関係が深い国」という友好関係を築くのは難しい。次世代の日本を率いる人々が米国を肌感覚で知っておくことは欠かせない。また、私個人の気持ちとしても、多彩な顔を持つ米国を味わってほしいと思っている。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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