金井啓子の現代進行形

ウイルスを「正しく怖がる」

2020年2月13日

情報の真偽を自ら見極める

 新型コロナウイルスはどこまで流行するのか、その先行きが見えない状況が続いている。日本ではマスクをする人が非常に多いと聞いた。日本を含むアジア系の人たちの間では、普段から着用に違和感がないマスク。だが、米国ではマスクをつける習慣があまりないようで、たまにアジア系の人がマスクをしているとぎょっとされたりするらしい。

 こうした認識の違いもあってか、最近サンフランシスコから米東海岸に行く際に空港や駅を利用したが、マスクの人はほとんど見かけなかった。だからか、コロナウイルスが身近に迫っている実感が私にはまだ薄い。

 ただ、米国の知人たちから聞く話にはひやりとさせられた。アジア系の人がサンフランシスコ周辺のジムで運動をしていると、ある人が「あなたは中国人か、日本人か」と尋ね、「なぜ知りたいのか」と返すと、「コロナウイルスのため」と言われたという。また、中国系米国人の女性がメキシコから帰ってきた際に空港から配車サービスの予約をしたところ、彼女の中国系の名前を見た運転手が乗車を拒否したそうだ。アジア系への差別が始まっていることに、うっすらとした恐怖を感じる。自分の生命が危険にさらされると、人間は容易に無知蒙昧(もうまい)かつ残酷になれるという好例なのだろう。

 また、新型コロナウイルスをめぐるうわさも飛び交っている。これは日本に限らないようで、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の呼びかけで国際的な協働プロジェクトが始まった。各国で行われたファクトチェックのデータが集まり始めたため、日本のファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)が、日本国内でファクトチェックされたものとあわせ、情報発信し始めた。

 FIJの楊井人文事務局長は、コロナウイルス関連の特設サイトを立ち上げたことに関して「ファクトチェックは誤情報を出した人を批判することが目的でも、情報が正しいか間違っているか白黒つけることが目的でもない」と述べ、「疑わしい情報に対して信頼できる根拠・証拠に基づいているかどうかを丹念に調べ、事実かどうかを確認し、その結果をシェアする。人々には、ファクトチェックの結論だけを見るのではなく、ファクトチェックが明らかにした根拠情報を確認して、自ら真偽を見極めていただきたい」と付け加えた。

 私も、FIJが各国のファクトチェックの内容を翻訳したものをチェックする作業に関わっているのだが、中には笑ってしまうほどこっけいでくだらない話もある。だが、それを信じてしまうのが、自分の身に降りかかる危険を察知した時の人間の性であり、恐ろしい。

 新型コロナウイルスは怖い。だが、FIJの特設サイトに書かれた「正しく怖がる」という言葉が今ほど大切な時はない。さもなければ、とてつもなく怖い状況に引きずり込まれていく可能性があるのだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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