金井啓子の現代進行形

米ジャーナリズムを学んだ半年

2020年4月2日

そのエッセンスを日本の学生に

 半年間にわたる米国での在外研究が終了した。帰国前に、お世話になったサンフランシスコ州立大学の同僚たちから「どんなことを学んだ?」「あなたの今後の授業に何をどう生かしていくつもり?」と聞かれた。同大学のジャーナリズム学科で30科目近い授業を見学して、教員と学生の目線を持ちつつ観察させてもらったのだ。

 これは既に同大学の同僚たちにも白状したので書いていいと思うが、滞在先として同大学は私の第一志望ではなかった。30年前に留学したのが米東海岸であったため、今回も西海岸は眼中になかった。また、ジャーナリズムの教育機関としては同大学よりもずっと有名な大学へ行こうともした。だが、さまざまな事情が重なって同大学に世話になることを決めた。

 そして今、たった半年だったが同大学で過ごせたことに全く悔いはなく、むしろ誇りに思っている。経済的に恵まれない学生が多い同大学で、豊かな暮らしが保障されるわけではない米国のジャーナリズム業界を目指して学ぶ学生の姿には、何度も刺激を受けた。また、そんな学生の背景や事情をくみ取りつつ、真摯(しんし)に向き合って授業を進める同僚たちには、尊敬の念を抱くと同時に励まされる思いがした。

 授業見学の際に、私の授業改善の参考になりそうなコツをメモしたのだが、60項目近くにのぼったその一覧を、帰国前に同僚たちに見せた。当初は、彼らが当たり前のようにやっていることが私には新鮮なのだと彼らに知られるのは、自分が遅れているのがばれるようで気後れしていた。だが、彼らには本当にお世話になったし返しきれない恩がある。また、自分が逆の立場だったら、私の授業を見学した人がどう受け止めたのかぜひ聞きたい。そう考えて一覧を渡したところ、彼らは「こんなふうにとらえていたのか」「興味深い」などと喜んでくれた。ちなみに、本コラムで10月以降ジャーナリズム教育や学生について書いた原稿も、英訳して同僚たちに読んでもらった。

 ところで、在外研究の成果をどう生かすのかという冒頭の問いへの答えだが、実は自分でもまだわかっていない。ただ、新学期に近畿大学の学生の前に立った時に、半年前の私とは何かが変わったと感じる瞬間が訪れるのではないかという、予感めいたものはある。また、在外研究が終われば期間中に得たものを吸収して授業に生かして終わりだと思っていたが、出会った人たちとのつながりはまだ始まったばかりなのだとも気づいた。サンフランシスコ州立大学以外にも7校にお邪魔して、ジャーナリズム教育にたずさわる教員と意見交換をしたのだ。

 さて、半年ぶりに戻って目にした日本は新型コロナウイルスの影響で出発前には想像もしなかった緊張感がある。近大も対応に苦慮している。米国で私が得た何かを授業に反映させるのは少し先になりそうだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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